デジタル遺言(保管証書遺言)の創設|2026年閣議決定に基づく新制度のポイント

デジタル遺言(保管証書遺言)の創設|2026年閣議決定に基づく新制度のポイント

日本の遺言制度は、これまで本文の「自筆」と「押印」を効力発生の厳格な要件としてきました。しかし、2026年(令和8年)4月、日本政府はデジタル化や高齢化への対応として、遺言制度の抜本的な改革を盛り込んだ民法改正案を閣議決定しました。

 

今回の改正の最大の柱は、パソコン等で作成したデータによる遺言方式デジタル遺言(保管証書遺言)の新設です。ここでは、法務省の改正要綱案に基づき「デジタル遺言」制度について解説します。

 

デジタル遺言の定義と法的枠組み

法務省の法制審議会が取りまとめた要綱案では、新しい遺言方式として「保管証書遺言」を規定しています。これは、パソコンやスマートフォン等で作成した電磁的記録(=デジタルデータ)を用い、法務局(遺言書保管所)が直接関与して作成・管理するものです。

 

成立のための厳格な要件(真正性の確保)

デジタル遺言では、利便性が高まる反面、なりすましや改ざんというリスクを防ぐため、以下のプロセスが必要です。

 

  • 電子署名の付与:遺言内容(文字情報)を作成後、マイナンバーカード等を用いた電子署名(=ネットワーク上の実印に相当する本人証明)を付与する必要があります。
  • 法務局への保管申請:作成したデータをオンライン等で法務局へ提出します。
  • 本人確認と全文の口述(核心的要件):遺言者が法務局職員の面前で、遺言の内容を自ら読み上げ(口述)なければなりません。本人の真意に基づき、かつ遺言能力(=内容を理解し判断できる法的能力)を有しているかを公的に確認するためです。
  • Web会議方式の活用:対面が原則ですが、法務局が認めた場合には映像と音声によるオンライン確認も認められる見通しです。

「デジタル遺言」が有利になるケース

以下のような場合は、デジタル遺言の活用が従来の遺言書よりも有利になる可能性が高いでしょう。

  • 自筆が身体的に負担になる方:加齢や病気で長文を書けない方が、法的に有効な遺言を残せるようになります。
  • 形式不備のリスクをゼロにしたい方:誤字脱字や押印漏れといった「うっかりミス」による遺言無効(=せっかくの想いが白紙になるリスク)を物理的に防げます。

 既存制度との比較と「押印廃止」の影響

今回の改正は、新制度の創設にとどまらず、これまでの遺言の「当たり前」を大きく変える内容となっています。

遺言方式の比較表(2026年改正案)

項目 自筆証書遺言(改正後) デジタル遺言(新設) 公正証書遺言
作成方法 全文自筆 PC・スマホ等 公証人が作成
押印(ハンコ) 不要(廃止予定) 不要 必要
本人確認 自己管理時はなし 法務局が確認 公証人が確認
検認手続き 必要 不要(予定) 不要

 

自筆証書遺言における「押印廃止」のデメリット

改正で注目すべき点は、紙の自筆証書遺言においても「押印」を不要とする方針です。一見便利に思えますが、実務上では懸念点もあります。

  • 懸念点:印影がなくなることで、本人の筆跡のみが唯一の証拠となります。もし相続人が「これは親が書いたものではない」と主張すれば、高額な費用がかかる「筆跡鑑定」を巡る争いが増え、最終的に遺産が紛争費用で削られてしまうリスクがあります。

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施行スケジュールと利用開始の見通し

現在のところ、施工スケジュールは次のとおり予定されています。

  • 2026年(令和8年)4月:改正案の閣議決定。
  • 施行(一部先行):自筆証書遺言の「押印廃止」などは、公布から1年以内に先行実施される予定です。
  • 実務的な運用開始(予測):デジタルデータの法務局保管(保管証書遺言)は、システム整備を考慮し、2028年度(令和10年度)中になるとの見方が有力です。

 

デジタル遺言導入による「相続税対策」のメリット

遺言書のデジタル化は、利便性向上以上の「経済的メリット」が大きくなると思われます。

  1. 修正の容易化によるメリット:資産価格(土地の時価など)や家族状況の変化に合わせて、簡単に遺言を再作成できます。これにより、常に相続税を最も抑えられる分割案を保つことができ、将来の税負担を軽減することが可能です。
  2. 小規模宅地等の特例の確実な適用:「どの土地を誰が継ぐか」が遺言で明確化されていれば、相続税の大幅な減額に繋がる小規模宅地等の特例(=土地の評価を最大80%減額できる制度)を確実に受けることができます。
  3. 二次相続の最適化:今回の相続(一次)だけでなく、将来配偶者が亡くなった際(二次相続)の税負担まで見据えた、より高度で精緻なシミュレーションに基づく分割を指定しやすくなります。

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デジタル遺言に関するアドバイス

デジタル遺言は万能ではありません。デジタル特有の課題を理解しておく必要があります。

  • ディープフェイク対策(真正性の検証):AI音声などによる偽造を防ぐため、法務局では「カメラの前で指定されたランダムな動作を行う」などの厳格な本人確認が課せられる予定です。
  • 「内容の正当性」は保証されない:法務局は「形式」は確認しますが、その内容が遺留分(=家族に最低限保証された取り分)を侵害していないかといった「法的な妥当性」まではチェックしません。ここを誤ると、手続きはスムーズでも結局後で家族間の裁判に発展するリスクがあります。

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活用のアドバイス

  • 専門家によるリーガルチェック:作成方法がデジタルになっても、内部の「税務・法務の知識」が間違っていてはお話になりません。税理士等の専門家による事前のチェックは依然として必要不可欠です。
  • 家族への共有:制度上、死後に相続人へ通知が行く仕組みはありますが、最も有効な「争続」予防策は、事前に家族へ「遺言を書いた」と伝えておくことです。

 

よくある質問(Q&A)

Q. デジタル遺言で、本文を自分の声で録音・録画する方法は認められますか?

A. 今回の改正では、病状急変時(危急時遺言)について録音・録画による遺言も認められる見通しです。しかし、通常の保管証書遺言では「文字情報の入力」と「電子署名」が主軸となります。

Q. 2026年の改正後、今持っているハンコ(押印)のある遺言書はどうなりますか?

A. 引き続き有効です。それどころか、「本人の意思」をより強固に示す証拠として機能するため、無理に押印のない形式へ書き直す必要はありません。

Q. 「保管証書遺言」は、公正証書遺言よりも費用が安くなりますか?

A. 手数料の詳細は今後確定しますが、一般的に公正証書遺言よりも安価に設定されることが期待されています。ただし、専門家への起案依頼費用は別途必要である点に注意してください。

Q:デジタル遺言(保管証書遺言)を作成した後、内容を少しだけ書き直したい場合はどうなりますか?

A: デジタルデータの性質上、上書き修正(訂正印での修正など)という概念はありません。一部を変更したい場合でも、改めて新しい遺言データを作成し、再度「電子署名」と「法務局への保管申請」の手続きを行うことになります。

Q:自分の死後、家族が「デジタル遺言」の存在に気づかない心配はありませんか?

A: その心配を解消するための仕組みが導入される予定です。法務局の遺言書保管制度と同様に、遺言者が亡くなった際に、あらかじめ指定しておいた特定の相続人(1名など)に対して、法務局から「遺言書が保管されていること」を自動的に通知する「死亡時通知制度」の活用が想定されています。

まとめ

2026年の民法改正による「保管証書遺言」の導入は、日本の相続実務における転換点です。紙と手書きの制約から解放されることで、より多くの人が自身の意思を正確な形で遺せるようになります。

 

しかし、手段が便利になっても「想いを正確に伝え、家族を守る」という本質は変わりません。最新の法制度を正しく理解し、専門家と連携しながら、デジタルという新しいツールを賢く活用していくことが重要です。

 

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この記事の執筆者:渡邉 優

「渡邉優税理士事務所」代表。相続の中でも“不動産にお困りごとを抱える相続”の対応を得意としている。

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