親から古い実家を相続したものの、誰も住む予定がなく空き家になっており、売却しようと考えている方は多いのではないでしょうか。しかし、いざ売却となると「税金が高額になるのでは?」と不安になるかもしれません。
実は、要件を満たせば「空き家特例(3,000万円特別控除)」により譲渡所得から最大3,000万円を控除でき、税負担を大幅に減らすことが可能です。特に、購入当時の契約書が見つからず取得費が不明なケースでは、大きな節税効果を発揮します。
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「空き家特例(3,000万円特別控除)」は令和6年(2024年)の法改正による要件の緩和や控除額の制限、さらには「1億円判定」や「老人ホーム入所時の要件」など、プロでも見落としやすい落とし穴が存在します。本記事では、税務事故を未然に防ぐため、実務家目線から空き家特例の適用要件や1億円判定のポイント、必要書類の取得方法まで網羅的に解説します。
※本記事は一般的な解説です。個別の税務判断は税理士にご相談ください。
目次
「被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除の特例」、通称「空き家特例」とは、相続によって取得した古い実家(昭和56年5月31日以前に建築されたもの)を、耐震改修または更地にして売却した場合などに、譲渡所得(売却益)から最大3,000万円を控除できる制度です。この特例を利用することで、所得税と住民税の負担を大幅に軽減、あるいはゼロにできる可能性があります。
古い実家を売却する際、購入時の契約書が紛失しており取得費(購入代金)が分からないケースが多々あります。その場合、売却価格の5%を「概算取得費」として計算することになりますが、実際の取得費よりも低く見積もられることが多く、結果として売却代金の大部分が譲渡益とみなされて多額の税金がかかるおそれがあります。このようなケースでは、最大3,000万円を控除できる空き家特例は絶大な効果を発揮します。
【前提条件】
※計算の根拠:所有期間5年超の長期譲渡所得(税率20.315%、復興特別所得税含む)を適用し、100円未満切り捨て。建物の減価償却は考慮外とする簡易計算。
【特例を使わない場合】
【空き家特例(3,000万円控除)を使った場合】
結論として、特例の適用有無で手残りが「約609万円」も変わることになります。
空き家特例を適用するためには、主に以下の要件をすべて満たす必要があります。
特例の対象となるのは、被相続人から「相続または遺贈」によって取得した財産です。また、家屋は昭和56年(1981年)5月31日以前に建築された一戸建てであることが求められ、マンションなどの「区分所有建物登記」がされている建物は対象外となります。未登記の建物であっても、建築計画概要書や固定資産税課税明細書などで建築年月日を証明できれば対象となります。
相続開始時から譲渡の時まで、家屋および敷地が「事業の用、貸付けの用、または居住の用」に供されていないことが原則です。遺品整理や掃除のために短期的に滞在することは通常問題ありませんが、継続的な生活実態がある(生活の本拠である)と判断されれば、居住用に使ったとみなされ特例が受けられなくなるリスクがあります。親戚に無償で貸していた場合(使用貸借)であっても、被相続人以外の人が住んでいたとみなされ適用対象外となります。管理目的の利用にとどめるなど注意が必要です。
被相続人が老人ホームなどに入所しており、相続開始の直前に実家に住んでいなかった場合でも、一定の要件を満たせば特例が適用されます。具体的には、入所直前において要介護認定等を受けていたこと、入所した施設が一定の施設(特別養護老人ホーム、有料老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅など)であることなどが求められます。
実務上の注意点として、入所後も家屋が被相続人の「物品の保管その他の用」に供されていたことが要件となるため、家財が残っていることが望ましいですが、家財の有無は判断要素の一つにすぎず、生活実態全体から総合的に判断されます。
親の介護のために子供が実家に出入りしていた場合、実態によって適用可否が分かれます。
通い介護(適用OK):子供が自分の自宅を生活の拠点としており、日中だけ実家に通って介護をしていた場合、被相続人は「一人暮らし」であったとみなされ適用可能です。
住み込み介護(適用NG):子供が実家に寝泊まりし、生活の拠点が実家に移っていた場合、被相続人以外の人が居住していたとみなされ、特例は使えません。
生活の拠点がどちらにあったかは、宿泊日数、住民票の所在地、郵便物の送付先、生活用品の保管場所などから総合的に判断されます。
令和5年度税制改正により、令和6年(2024年)1月1日以降の譲渡について、空き家特例の取り扱いが一部変更されました。
制度の適用期限が延長され、令和9年(2027年)12月31日までに行う譲渡が対象となりました。
これまでは、売却する前に売主の負担で家屋を解体するか、耐震改修を行う必要がありました。しかし改正により、現状のまま売買契約を締結し、譲渡後、翌年2月15日までに買主による耐震改修や解体が完了し、かつ確定申告の期限までに確認書を取得した場合でも、特例の対象として認められるようになりました。
ただし、このスケジュールは厳格であり、工事が期限に間に合わなければ特例が適用できなくなるため、売買契約時に期限を明確にしておくことや、損害賠償の特約を設けるなどの防衛策が重要です。
これまで相続人の数に関わらず1人あたり最大3,000万円の控除が受けられましたが、令和6年1月1日以降の譲渡においては、家屋および敷地等を取得した相続人が3人以上いる場合、1人あたりの特別控除額の上限が「2,000万円」に減額されました。
空き家特例の要件である「売却代金(譲渡対価)が1億円以下」であるかの判定は、不動産会社の提示額ベースでは1億円未満に見えても、実質的な負担分を含めると税務上は1億円超と判断されるケースがあるため注意が必要です。
売買契約において、売主が負担すべき建物の解体費用を買主が肩代わりすることを条件に売却金額を取り決めた場合、その解体費用は「譲渡対価」に加算されます。例えば、売却金額9,900万円で、買主が400万円の解体費用を負担する場合、譲渡対価は1億300万円となり、1億円を超えるため特例は適用できなくなります。測量費用などを買主に負担させた場合も、実質的な値引きと判断される場合は譲渡対価に含まれる可能性があります。
残代金決済時に売主と買主の間で日割り清算される「固定資産税・都市計画税の精算金」は、税務実務上、売買代金の一部として譲渡対価に含めて判断されることが一般的です。売買代金と清算金の合計が1億円を超えてしまうと適用不可となります。
土地を分割(分筆)して複数回に分けて売却したり、複数の相続人が共有名義で売却したりした場合、適用対象期間内(相続開始から3年目の12月31日まで)の譲渡対価は、「同一被相続人から取得した財産ごと(同一制度内)」での合計額で1億円以下かどうかを判定します。合算した結果1億円を超えてしまった場合、要件を満たさなくなり過去に適用した特例も否認され、修正申告が必要になるリスクがあります。
※譲渡所得税等税率20.315%、諸経費5%、概算取得費5%と仮定した簡易計算。
| 売買価格 | 譲渡所得税等
(特例適用時) |
譲渡所得税等
(特例不可時) |
最終手残り額 |
|---|---|---|---|
| 9,900万円(単独相続) | 約1,200万円(3,000万円控除) | ― | 約8,204万円 |
| 1億500万円(単独相続) | 適用不可(1億円超のため) | 約1,919万円 | 約8,055万円 |
| 9,900万円(2名共有) | 約591万円(3,000万円×2名控除) | ― | 約8,813万円 |
| 1億1,500万円(2名共有) | 適用不可(1億円超のため) | 約2,102万円 | 約8,822万円 |
単独相続の場合、1億500万円で売却するよりも、9,900万円に価格を下げて空き家特例を適用したほうが、税引き後の「最終手残り額」が多くなる逆転現象が起こります。共有相続の場合は控除額が大きくなるため、手残り額を慎重にシミュレーションして売却価格を決定する必要があります。
売却価格が1億円前後の場合、契約条件や費用負担の設計によって特例が使えなくなるケースがあります。当事務所では、売却前の段階から税務リスクを確認し、確実に特例を適用するための無料相談を行っております。
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被相続人の自宅敷地について、相続税の申告で評価額を80%減額できる「小規模宅地等の特例」を適用した場合でも、その後に実家を売却する際に「空き家特例」を併用することが可能です。相続税と譲渡所得税の両方でダブルの軽減措置を受けられるケースがあるため、要件を満たすか確認しましょう。
「相続財産を譲渡した場合の取得費の特例(取得費加算の特例)」は、相続時に納付した相続税額の一部を、不動産売却時の取得費に加算して譲渡所得を減らせる制度です。しかし、空き家特例と取得費加算の特例は、同一譲渡について適用関係の整理が必要となります。どちらが有利になるかは、相続税額や譲渡益の金額によって異なるため、事前シミュレーションが重要です。一般に、相続税の納税額が大きく譲渡益が小さい場合は取得費加算の特例が、譲渡益が大きく相続税が少ない場合は空き家特例が有利になる傾向があります。
相続人自身が住んでいる自宅を売却した際に使える「マイホーム特例」と空き家特例は、原則として同一物件での併用は不可ですが、別物件であれば同一年でもそれぞれ特例を適用することは可能です。ただし、同一年内に両方の特例を適用する場合、2つの特例を合わせた控除額の合計は「最大3,000万円」が上限に制限される点に注意が必要です。年をまたいで別々の年に売却すれば、それぞれの年で最大3,000万円(累計最大6,000万円)の控除枠を活用できます。
空き家特例と、新居を購入した際の「住宅借入金等特別控除(住宅ローン控除)」は、直接の制限は少ないものの、ケースによるため要個別判断となります。他の居住用特例との適用関係によっては制限がかかる場合があるため、事前確認が不可欠です。
空き家特例を適用するための確定申告では、以下の書類が必要となります。
| 書類名 | 取得先 | 注意点・備考 |
|---|---|---|
| 被相続人居住用家屋等確認書 | 物件所在地の市区町村 | 自治体ごとに審査期間や必要資料が異なるため、早めの申請が必須 |
| 登記事項証明書 | 法務局 | 建築時期や区分所有でないこと、相続による取得を証明 |
| 売買契約書の写し | お手元の控え | 売却代金が1億円以下であることを証明 |
| 閉鎖事項証明書 | 法務局 | (解体した場合)家屋の取り壊しが完了していることを証明 |
| 譲渡所得の内訳書 | 税務署・国税庁HP | 譲渡益を算定するための計算明細書 |
確定申告の必須書類である「被相続人居住用家屋等確認書」は、譲渡の形態に合わせて物件所在地の市区町村(建築課や空き家対策課など)に申請様式を選んで提出します。
申請には、空き家であったことを証明するために、電気・ガス・水道の使用中止日がわかる書類や、土地の現況写真などが必要になります。しかし、何年も前のことで水道局などに記録が残っていないケースもあります。住民票や閉栓証明で確認できない場合でも、市区町村によっては代替書類(老人ホームからの外出・外泊記録や、空き家バンクへの登録証明など)やヒアリングで要件充足が確認できれば交付されるケースがあります。自力での申請や代替書類の判断は難易度が高いため、専門家に早めに相談しましょう。
家屋を取り壊して更地にして売却する場合、解体のタイミングには注意が必要です。家屋を解体して更地にすると固定資産税の「住宅用地の特例」から外れ、翌年の固定資産税が最大6倍に跳ね上がる可能性があります。課税期日(1月1日)をまたいで更地の状態にならないよう、解体スケジュールの管理が重要です。
特例の適用要件には「被相続人居住用家屋およびその敷地等の両方」を相続等により取得することが定められています。例えば「長男が家屋を、次男が土地を」別々に相続(分割相続)した場合、家屋と土地を別々に相続した場合は、特例適用が複雑となり、適用できないケースもあるため注意が必要です。
火事や事故などで夫婦が同時に亡くなった場合、民法上は同時に死亡したものと推定されます。この場合、相続開始時点では配偶者も存在していたとみなされるため、「被相続人が一人で居住していた」という要件を満たさず、特例が適用できないという理不尽なケースも実務上存在します。
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A. 使えません。空き家特例の対象となるのは「一戸建て(区分所有建物以外の家屋)」に限られます。
A. 特例の対象になりません。空き家特例を適用するためには、原則として「家屋と敷地をセット」で売却するか、「家屋を取り壊して更地にした敷地全体」を売却する必要があります。
A. はい、本当です。売買契約に基づき、譲渡後、翌年の2月15日までに買主が解体または耐震改修を行った場合も適用対象に加わりました。期限を過ぎると特例が使えなくなるため、契約書で期日を明確に定めるなどの対応が必須です。
A. いいえ、できません。令和6年1月1日以降の売却から、相続人が3人以上の場合は1人あたりの控除上限額が「2,000万円」に制限されました。そのため、全体で最大でも6,000万円(2,000万円×3人)までの控除となります。
A. 個別事情によります。家財道具等の保管場所として使用し、一時滞在で使用していたような「一定の使用」があれば適用可能です。しかし生活の本拠がどこにあったのか等、総合的に判断されますので税理士にご相談ください。
A. はい、取得費が不明でも空き家特例は適用可能です。この場合、取得費を売却価格の5%とする「概算取得費」を使うケースが多く、税額が高額になりやすいため、空き家特例の節税効果が大きくなる傾向があります。
A. 被相続人の居住部分のみに特例を適用できます(居住部分が全体の90%以上の場合はすべてに適用可能)。ただし、1億円以下の判定を行う際には、居住部分だけでなく店舗部分の売却対価も含めた「全体の売買代金」で計算するため注意が必要です。
A. できれば「不動産会社に査定を依頼する前の段階」からご相談ください。解体や売却方法、契約条項、名義整理などを査定前に決めておくことが最も安全です。
相続した空き家の売却は、「とりあえず売ってしまえば控除が使える」という単純な話ではありません。家屋と土地の相続状況、解体や耐震改修のタイミング、実質的な売却代金の計算方法によって、特例が使えるかどうかが大きく変わります。特に「1億円判定の罠」や「令和6年の法改正」は、プロでも見落としやすい重要ポイントです。
空き家売却に伴う税務判断は非常に複雑であり、解体のタイミングや契約条項、遺産分割を間違えるだけで、手残りが数百万円〜数千万円も変わる事態になりかねません。不安がある場合は、不動産会社に査定を依頼する前の段階であっても、下記お問い合わせフォームより当事務所までご相談ください。
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