相続した不動産の売却では、譲渡所得税の計算と特例の選択が手残り金額を大きく左右します。特に「取得費不明」の場合は概算取得費が売却価格の5%となるため、課税所得が想定外に膨らみやすい点に注意が必要です。2024年(令和6年)には、空き家特例の要件見直しや相続登記の義務化など重要な法改正が相次いで施行されており、正確な期限管理と有利な特例の選択が今まで以上に重要になっています。
※本記事は一般的な解説です。個別の税務判断は税理士にご相談ください。
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相続不動産の売却において、多くの方が直面するのが「2024年の税制・法律改正への対応」と「取得費が分からない問題」です。不動産売却で得た利益には譲渡所得税などが課せられますが、税金の知識がないまま売却してしまうと、活用できたはずの特例を見逃したり、誤った計算をしてしまったりして、手元に残る現金が数百万円単位で減少してしまうリスクがあります。
本記事では、相続した不動産の売却にかかる税金や費用の全体像から、取得費が不明な場合の実務的な対応策、さらには最新の法改正に対応した節税戦略までを解説します。より詳細な要件や各特例の詳しいシミュレーションについては、各見出しに設置している詳細記事へのリンクもあわせてご覧ください。
目次
不動産を売却して利益(譲渡所得)が生じた場合、その利益に対して「譲渡所得税(所得税)」「住民税」、そして令和19年(2037年)までは「復興特別所得税」が課税されます。譲渡所得は、以下の計算式で求められます。
譲渡所得 = 譲渡収入金額(売却価格) - (取得費 + 譲渡費用)
この計算式からも分かる通り、不動産を購入したときの代金である「取得費」と、売却のために直接かかった「譲渡費用」を売却価格から差し引き、残った利益に対してのみ税金がかかります。したがって、取得費と譲渡費用をいかに漏れなく、正確に計上するかが節税の第一歩となります。
譲渡所得にかかる税率は、不動産の「所有期間」によって大きく2つに区分されます。
ここで最も注意すべき点は、所有期間の数え方です。不動産を売却した日ではなく、「売却した年の1月1日時点」で5年を超えているかどうかで判定されます。さらに、相続によって取得した不動産の場合、所有期間は被相続人(亡くなった方)が取得した日をそのまま引き継ぎます。
もし親が長年所有していた実家を相続したのであれば、相続してすぐに売却しても「長期譲渡所得」の低い税率が適用されます。ただし、被相続人の所有期間が5年前後の場合は、年末に売るか年明けに売るかで適用される税率が約2倍(39.63%か20.315%か)変わるため、売却のタイミングには細心の注意が必要です。
譲渡所得を減らすためには「譲渡費用」の計上が不可欠ですが、売却に関わるすべての費用が経費として認められるわけではありません。正しい分類基準を知っておく必要があります。
【譲渡費用として認められるもの】
譲渡費用として認められるのは、「不動産を売却するために直接要した費用」です。以下のようなものが該当します。
【原則として認められないもの】
一方で、不動産の維持や管理にかかった費用は、原則として譲渡費用にはなりません。所有期間中に支払った固定資産税、マンションの管理費・修繕積立金、通常の修繕費などは対象外です。
また、残置物撤去費用やハウスクリーニング代も原則として対象外ですが、買主からの強い要望で「その作業をしなければ売買契約が成立しなかった」など、売却の直接の条件となっているような個別事情がある場合には、例外的に認められるケースも存在します。
不動産業界において、低廉な空き家等の売買に関する仲介手数料のルールが改正され、現在適用されています。このルール変更は税金そのものではありませんが、売主(相続人)が負担する「譲渡費用」の金額に直結するため、押さえておくべきポイントです。
従来、不動産会社が受け取れる仲介手数料の上限は「売買価格の一定割合+固定額」と定められていました。しかし、地方の空き家など価格が低い物件では調査費用等のコストが見合わず、不動産会社に仲介を敬遠されやすい課題がありました。
これを解消するため、以前は「400万円以下の物件」について売主からのみ上限18万円(税別)まで受領できる特例がありましたが、法改正により対象が「800万円以下の物件」に拡大されました。さらに、売主だけでなく「買主」からも受領可能な上限が引き上げられました。
この新しい特例を利用して不動産会社が通常の上限を超える仲介手数料を受け取るためには、事前の手続きが必要です。不動産会社は、あらかじめ特例報酬を適用する旨を説明し、媒介契約締結時に合意を得たうえで書面に明記する義務があります。売却を依頼する際は、媒介契約書の手数料に関する項目をしっかりと確認しましょう。
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相続不動産の売却において、実務上多く発生するのが「取得費(買ったときの値段)がわからない」という問題です。先祖代々受け継いできた土地や、数十年前に親が購入した不動産の場合、当時の売買契約書や領収書が紛失していることが多くあります。
取得費を証明する資料がない場合、税務上のルールとして「売却価格(収入金額)の5%」を取得費とみなして計算する「概算取得費(5%ルール)」が適用されます。実際の購入価格よりも取得費が低く見積もられ、多額の譲渡所得税を納める結果につながる可能性があります。
また、仮に当時の購入価格が判明している場合であっても、建物部分については「購入価格」をそのまま取得費として計上することはできません。建物は経年によって価値が減少するため、購入代金から所有期間に応じた「減価償却費相当額」を必ず差し引いて現在の価値(未償却残高)を算出しなければならないという実務上のルールがあります。
【シミュレーション:5%ルールの適用による税負担】
【前提条件】
【計算結果】
購入金額を証明する契約書がないというだけで、概算取得費が適用され、課税所得が大きくなり、結果として約558万円もの税金が発生してしまうのです。
取得費を証明する契約書がない場合の対策として、「市街地価格指数」を用いた推計が一つの方法として用いられることがあります。市街地価格指数とは、一般財団法人日本不動産研究所が公表している、全国の市街地における宅地価格の推移を示すマクロな指標です。この指数を用いて、「売却時の時価に、購入時と売却時の指数の変動率を掛け合わせて、購入当時の価格を逆算・推計する」方法も考えられます。
ただし、市街地価格指数による推計は、あくまで補助資料の一つとして位置付けるのが安全です。市街地価格指数は広域の平均値であり、個別不動産の特殊事情(局地的な再開発や地形の良し悪し等)を反映していないため、税務調査において「合理性がない」と否認されるケースも多く、慎重な検討が必要です。
市街地価格指数単独での推計はリスクがあるため、実務上はより個別性の高いデータを用いて補強する必要があります。例えば、国土交通省が発表する「地価公示価格」や、国税庁が公表する「路線価」の変動率を用いる方法です。
昭和30年代や40年代の古い路線価は現在のインターネット上には公開されていませんが、国立国会図書館に所蔵されているマイクロフィルム等を調査することで過去の路線価を割り出し、それを基に当時の時価を算定するアプローチも存在します。さらに、当時の住宅ローンの金銭消費貸借契約書や、登記簿謄本に残る抵当権の設定金額、当時の分譲パンフレットなどを組み合わせることで総合的に立証することが可能です。
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相続した不動産を売却する際、要件を満たせば節税効果をもたらす特例が用意されています。しかし、特例には「一緒に使えるもの(併用可)」と「どちらかしか使えないもの(併用不可)」があるため、選択が重要になります。
相続税を納めて不動産を取得した場合、その不動産を売却した際に、支払った相続税のうち「その不動産に対応する金額」を取得費に上乗せできるのが「相続財産を譲渡した場合の取得費の特例(取得費加算の特例)」です。取得費が増える分、譲渡所得が減り、所得税や住民税を軽減できます。適用要件は主に以下の3つです。
ただし、以下の落とし穴に注意が必要です。配偶者の税額軽減により相続税が発生しないケースでは、取得費加算の効果を受けられません。この特例は「相続税を納めていること」が条件です。配偶者の場合、「1億6,000万円または法定相続分」のいずれか大きい額までは相続税が無税となる「配偶者の税額軽減」制度があります。この制度を適用して自身の相続税額がゼロになった場合は、加算する相続税がないため、この特例を利用することはできません。
また、特定の相続人が不動産を単独で引き継ぐ代わりに、他の相続人へ現金(代償金)を支払う「代償分割」を行った場合、取得費に加算できる相続税額の計算過程において、支払った代償金の額がマイナス要因として調整されます。そのため、通常の分割よりも取得費に加算できる額が減少し、特例の効果が低下してしまうことがあります。不利と断定はできませんが、事前のシミュレーションが重要です。
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被相続人が亡くなる直前まで一人で住んでいた家(空き家)を相続し、それを売却した場合に譲渡所得から最大3,000万円を控除できる「空き家の譲渡所得の3,000万円特別控除」は、節税効果の高い制度です。対象となる家屋は「昭和56年5月31日以前(旧耐震基準)に建築された戸建て」であり、マンション等は対象外です。また、相続から売却までずっと空き家であったこと、売却額が1億円以下であることなどが要件となります。さらに、令和5年度税制改正により、2024年(令和6年)1月1日以降の譲渡から、以下の要件の見直しが行われました。
以前は、特例を受けるためには「売却する前」に売主自身が費用を出して家屋を耐震改修するか、解体して更地にする必要がありました。しかし2024年以降の売却では、そのままの状態で引き渡した後であっても、「譲渡の日の属する年の翌年2月15日まで」に買主の側で耐震改修または解体工事を行えば、特例の適用が認められるようになりました。
ただし、買主が期限までに工事を完了し、証明書類を提供してくれることが条件となるため、売買契約書に特約を盛り込むなどの対策が不可欠です。
相続人が3人以上で空き家を共有して取得し、それを売却する場合、2024年1月以降の売却では、相続人1人あたりの控除上限額が「2,000万円」に引き下げられました。
空き家特例の要件である「譲渡価額1億円以下」という基準の判定にも注意が必要です。複数の相続人が空き家や敷地を分割して相続し、それぞれが時期をずらして売却した場合、相続開始から3年を経過する日の12月31日までに行われた全ての譲渡価額を合算して1億円以下であるかを判定します。
もし、あなたが先に自分の持分を売却して特例の適用を受けていたとしても、後から別の親族が残りの持分を売却し、全体で1億円を超えてしまった場合、事後的にあなたも特例の対象外となってしまいます。その結果、さかのぼって修正申告が必要となる可能性があり、追加の税金と延滞税等の納付を求められるリスクに注意が必要です。
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不動産売却の節税において、「取得費加算の特例」と「空き家の3,000万円特別控除」は、どちらか一方しか適用できない「選択制(併用不可)」のルールがあります。有利・不利の基準を以下の比較表に整理しました。
| 項目 | 取得費加算の特例 | 相続空き家の特例(3,000万円特別控除) |
|---|---|---|
| 他の特例との併用 | 不可(有利な方を選択) | 不可(有利な方を選択) |
| 相続税の納付 | 必要(納付した相続税額が加算のベース) | 不要(相続税が0円でも利用可能) |
| 適用期限 | 相続開始の翌日から3年10ヶ月以内 | 譲渡自体は相続開始から3年目の12月末まで |
| 向いているケース | 相続税が非常に高額なケース | 取得費が低く、売却益(譲渡益)が大きく出るケース |
なお、「取得費加算の特例」は、被相続人と同居していた相続人が自宅を売却する際に使える「マイホーム特例(居住用財産の3,000万円特別控除)」や、相続税の計算時に土地の評価額を下げる「小規模宅地等の特例」とは併用が可能です。
ただし、小規模宅地等の特例を適用して相続税自体が大幅に下がると、取得費に加算できる相続税額のベースも減少するため、結果的に取得費加算による所得税の節税効果は小さくなる計算構造になっています。
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不動産を売却するためには、前提として亡くなった親(被相続人)から相続人へ名義を変更する「相続登記」を行う必要があります。この相続登記に関する法律が2024年に大きく改正され、義務化されました。
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全国で社会問題化している「所有者不明土地」を解消するため、2024年(令和6年)4月1日より、相続登記の申請が法律で義務化されました。相続によって不動産を取得したことを知った日から「3年以内」に相続登記を申請しなければなりません。
さらに、この義務化は法改正前に発生した過去の相続による不動産にも遡及して適用されます。期限内に正当な理由なく登記を怠った場合、10万円以下の過料(行政罰)が科されるリスクがあります。不動産を第三者に売却するためには、必ず自分たちの名義に相続登記を済ませておく必要がありますので、売却を検討しているなら速やかに手続きを進めましょう。
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相続人が複数いて遺産分割協議が難航し、3年の期限内に誰が不動産を相続するかが決まらないケースもあります。その場合の救済措置として、新しく「相続人申告登記」という制度が創設されました。これは、戸籍謄本等を提出し「自分が相続人の一人である」と法務局へ申告するだけで、とりあえず登記義務を履行したとみなされる制度です。単独で申請でき、登録免許税も非課税というメリットがあります。
しかし、相続人申告登記はあくまで「義務違反の過料を免れるための暫定的な措置」です。この申告をしただけでは不動産の名義が完全に移ったわけではないため、この状態のままでは不動産を売却したり、担保に入れたりすることは一切できません。売却を見据えるのであれば、最終的には正式な遺産分割協議を成立させ、確定した所有者への「本来の相続登記」を行う必要があります。
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相続登記を行う際には「登録免許税(固定資産税評価額の0.4%)」という税金がかかりますが、登記を促進するため、一定の条件下でこの税金が非課税(免除)となる特例が設けられており、その適用期間が令和9年(2027年)3月31日まで延長・拡充されています。
これらの免税措置を受けるためには、登記申請書に免税の根拠となる法律の条文を正確に記載しなければならず、記載を忘れると免税されません。
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A. はい。譲渡所得の所有期間は、売却した日ではなく「売却した年の1月1日時点」で判定されます。そのため、実際の所有期間が5年を超えていても、1月1日時点で5年以下であれば、税率が約2倍高い「短期譲渡所得(39.63%)」になってしまうため、売却時期には細心の注意が必要です。
A. いいえ、相続開始日ではありません。相続で取得した不動産の所有期間は「被相続人(亡くなった親)が取得した日」を引き継ぎます。親が長年所有していた実家であれば、相続してすぐに売却しても「長期譲渡所得」の低い税率が適用されます。初心者が誤解しやすいポイントですのでご注意ください。
A. 修繕費や日々の維持管理費は、原則として譲渡費用になりません。また、残置物撤去費用やハウスクリーニング代も原則として対象外ですが、買主から強く要望され、「その作業をしなければ売買契約が成立しなかった」など、売却の直接の条件となっているような個別事情がある場合には、例外的に認められるケースもあります。自己判断せず税理士にご相談ください。
A. 可能です。国会図書館での過去の路線価調査や、日本不動産研究所の市街地価格指数等を用いて推計し、税務署に認められれば実額に近い取得費で申告できます。ただし、合理性の立証など高度な専門知識が必要なため、税理士にご依頼ください。
A. 現在適用されている最新のルールにより、後から全体の売却額が1億円を超えた場合、すでに特例の適用を受けて税金を申告・納付した人も特例の対象外となり、さかのぼって「修正申告」と追加の税金納付が必要になる可能性があります。
A. 相続不動産の税務に精通した税理士にご相談ください。渡邉優税理士事務所では、過去のデータを用いた取得費の推計から、お客様に最も有利な特例の選択までをワンストップでサポートする初回無料相談を実施しております。まずは専門家にご相談いただくのが確実です。
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相続した不動産の売却は、単に買主を見つけて手放せば終わりではありません。不動産の売却活動は不動産会社が行いますが、税制面や法務面では以下のようなハードルが待ち受けています。
当事務所では、税理士をはじめとする各分野の専門家ネットワークを活かし、税務から法務までワンストップで対応できる強みを持っています。相続不動産の売却については、下記お問い合わせフォームからお気軽にご相談ください。
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