不動産の売却を行い利益がでると所得税が課税されますが、自宅を売却し、買い替える場合には優遇措置があります。また、自宅の売却で損失が出た場合には、他の所得と合算して税金の還付を受けることも可能です。
ここでは、自宅を買換える場合の特例をケース別に紹介します。自宅の買換えを検討されている方は、ぜひ最後までお付き合いください。
目次
土地や建物、有価証券などを売却した際の利益は譲渡所得の対象になります。自宅も例外ではなく、譲渡所得の対象になります。譲渡所得は、売却価額がそのまま対象になるのではなく、購入代金や購入手数料などの取得費と譲渡に関する費用を差し引いて計算します。
建物の取得費については、所有期間中の減価償却費相当額を差し引きます。さらに、特例を利用する場合には、特別控除額を差し引いて譲渡所得の計算を行います。
不動産の売却による譲渡所得は分離課税方式によって行われ、原則的に給与所得などの他の所得と通算されません。
そのため、税率は一律になっており、所有期間が5年超の場合の税率は20.315%(所得税15.315%、住民税5%)、5年以下の場合の税率は39.63%(所得税30.63%、住民税9%)になります。
自宅を売却する際には、5つの特例が利用できます。それぞれ簡単に見ていきましょう。
この特例は、自宅を売却する際、譲渡所得から3,000万円を差し引くことができる制度です。この特例を利用することで「最大600万円以上の節税」が可能になります。要件が難しくないため、使いやすい特例です。
居住用財産の3,000万円控除については「居住用財産の3,000万円控除の活用方法!!」をご覧ください。
この特例は、売却する自宅を10年超所有していた場合、長期譲渡所得の税率を低くすることができる制度です。長期譲渡所得が6,000万円以下の部分について、合計税率が20.315%から14.21%になり、6.105%軽減することができます。
特定居住用財産の買換え特例は、課税される譲渡所得を将来に先送りにする特例です。この特例を利用すると、自宅を売却した時に譲渡所得が課税されるのではなく、買換え後の自宅を売却するタイミングでまとめて課税されます。
所有期間が10年以上であることや売却金額が2億円以下であることなど、利用するための要件が多いため、慎重に検討しなければならない制度です。
この特例は、自宅を売却して損失が発生した場合、かつ、新たな自宅を住宅ローンにより購入する場合に利用できる制度です。この特例により、発生した損失を他の所得と通算することができます。通算できる期間は、申告する年と翌年以後3年間になります。
例えば、自宅の売却で1,000万円の損失が出た場合、給与所得などの他の所得から控除することができます。既に年末調整が行われている給与所得がある場合には、所得税の還付を受けることができます。また、住宅ローン控除と併用することでさらに節税することも可能です。
この特例は、住宅ローンの残債がある自宅を住宅ローンの残債を上回る金額で売却し、損失が発生した場合に利用できる制度です。新たに自宅を購入しない場合に利用することができます。
発生した損失は他の所得と通算することができますが、損益通算の対象になる金額は損失額かオーバーローン(売却金額を差し引いたローン残高)のいずれか少ない方になります。
自宅の買換えに利用できる特例は、それぞれ制度の要件や計算方法が異なるため、自分のケースではどの特例を利用した方がいいのか検討する必要があります。ここではケース別にどの特例を利用した方がいいのかを紹介します。
自宅を売却した際に利益(譲渡所得)が発生する場合には「居住用財産の3,000万円控除」「10年超所有軽減税率の特例」「特定居住用財産の買換え特例」の3つの特例が利用できます。
「居住用財産の3,000万円控除」と「10年超所有軽減税率の特例」は併用して適用することができます。つまり、10年を超えて自宅を所有している場合には2つの特例を併用することで、さらに節税することができます。
「特定居住用財産の買換え特例」については、併用が認められていませんので単体で利用することになります。
利益が発生する場合
・自宅の所有期間が10年を超⇒「居住用財産の3,000万円控除」+「10年超所有軽減税率の特例」もしくは「特定居住用財産の買換え特例」
・自宅の所有期間が10年未満⇒「居住用財産の3,000万円控除」もしくは「特定居住用財産の買換え特例」
どちらの制度が最も節税になるのかはケースバイケースになりますので、個別に計算が必要になります。参考に例題をもとに計算してみましょう。
<前提条件>
・自宅の所有期間は10年超
・売却価額9,000万円
・譲渡費用500万円
・取得費は不明
・新たに購入した自宅の価額は6,000万円
譲渡所得の計算
売却金額9,000万円-(※取得費9,000万円×5%+譲渡費用500万円)-特別控除3,000万円=譲渡所得5,050万円
※取得費が不明の場合は売却価額の5%になります。
税額の計算
譲渡所得5,050万円×14.21%(10年超所有軽減税率の特例)=7,176,050円
譲渡収入金額の計算
売却価額9,000万円-新たに購入する自宅の価額6,000万円=3,000万円
取得費の按分計算
(9,000万円×5%+譲渡費用500万円)×譲渡収入金額3,000万円/売却価額9,000万円=3,166,666円
税額の計算
譲渡収入金額3,000万円-取得費3,166,666円=譲渡所得26,833,334円
譲渡所得26,833,334×税率20.315%=5,451,191円
上記の例では、特定居住用財産の買換え特例を利用した方が納税が少なくなる結果になります。ただし、新たに購入した自宅の取得費には前の取得費が引き継がれます。そのため、その自宅を売却する際に多額の税金が発生する可能性があります。
特定居住用財産の買換え特例は、将来の税金が関連してくるため、慎重に検討して判断しなければならない特例です。ぜひ私ども専門家へご相談ください。
自宅の売却により損失が発生する場合は、住宅ローンの有無によって利用できる特例が異なります。
売却する自宅に売却金額以上の住宅ローン残高がある場合には「特定居住用財産の譲渡損失の損益通算及び繰越控除」が利用できます。新たに購入する自宅を10年以上の住宅ローンで購入する場合は「居住用財産買換え等の場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除」も利用できます。(併用不可)
基本的には「居住用財産買換え等の場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除」を利用した方がオーバーローンの制限がないため有利になるでしょう。
売却する自宅に売却金額以上の住宅ローン残高がなく、新たに購入する自宅を10年以上の住宅ローンで購入する場合は「居住用財産買換え等の場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除」が利用可能です。
自宅の売却で利益が発生し、居住用財産の3,000万円控除、10年超所有軽減税率の特例、特定居住用財産の買換え特例のいずれかを利用した場合、新たに購入する住宅にかかる住宅ローン控除は利用できません。
売却の際に特例を利用した方が得になるのか、それとも新たに購入する住宅で住宅ローン控除を利用する方が得になるのかは、それぞれのケースで検討する必要があります。
自宅の売却で損失が発生し「居住用財産買換え等の場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除」を利用する場合については、住宅ローン控除と併用することが可能です。
自宅を購入する際に親や祖父母から資金提供してもらえる場合には「住宅取得資金贈与の特例」を利用することができます。住宅取得資金贈与の特例を利用することで、特例の1,000万円と贈与税の基礎控除である110万円と合わせて最大で1,110万円を非課税にすることが可能です。
住宅取得資金の贈与を検討する場合には、贈与を受けるタイミングが重要になります。贈与のタイミングを間違えてしまうと特例が利用できず、通常の贈与として贈与税が課税されてしまいます。
住宅取得資金贈与の特例を利用するためには、住宅を購入する前に贈与を受けておかなければなりません。住宅購入後に贈与を受けた場合は、特例の対象外になってしまいます。また、この特例は、贈与を受けた年の翌年3月15日までに居住を開始しなければなりません。そのため、年末の贈与はできるだけ避け、年の前半で贈与を受けた方がいいでしょう。
自宅を買換える場合の税金には「どの特例を利用した方がお得なのか」をしっかりと検討することが重要です。間違った判断により、将来的に税金が高くなってしまう可能性もありますので、まずは現在の自宅の取得費、ローン残高、売却予定額をしっかりと把握しましょう。そして、新たに購入する自宅はどれくらいの金額になるのかを想定し、特例の選択を行いましょう。
当事務所は、不動産に関する税金の専門家です。不動産に関するあらゆるご相談に対応しておりますので、自宅の買換えについてもお気軽にご相談ください。
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