アパートを贈与しただけなのに税金が増える?「負担付贈与」の落とし穴

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アパートを贈与しただけなのに税金が増える?「負担付贈与」の落とし穴

「アパートのローンも完済したし、子供に名義を変えるだけなら簡単だ」

このように将来の相続を見据えて、貸付物件の生前贈与を検討される方は少なくありません。

 

多くの方が「ただの名義変更だから、贈与税さえ計算すればいいはずだ」 「ローンは完済しているから、余計な借金も引き継がないし、何も問題はないだろう」と考えてしまいますが、この「名義を変えるだけ」という油断が、実務では最も危険なことなのです。

 

賃貸不動産の贈与では、何もしないと「負担付贈与」となり、想定外の重い税金が生じることがあります。ここでは、賃貸物件を贈与した場合の「負担付贈与における相続税評価額」について、わかりやすく解説します。

 

そもそも「負担付贈与」とは

「負担付贈与」とは、簡単に言うと「条件付きのプレゼント」のことです。通常の贈与は、見返りなく財産をもらうだけですが、財産をもらう代わりに、もらう側(受贈者)が何らかの債務(借金など)を肩代わりすることを条件にした場合、それは「負担付贈与」になります。

 

【負担付き贈与になる例】

例:住宅ローンの残っている家をもらう代わりに、残りのローンを子が払う。

例:賃貸アパートをもらう代わりに、入居者から預かっている「敷金」を返す義務を引き継ぐ。

 

不動産の贈与で問題になりやすい「敷金」

「うちはローンがないから大丈夫」という場合であっても安心はできません。なぜなら、賃貸不動産には、銀行からのローン以外にも「見えない借金」である入居者からの「預かり敷金」が存在するからです。

 

敷金は、不動産オーナーが入居者から「預かっているお金」であり、退去時には原則として返さなければならない「債務(借金)」です。例えば、賃貸アパートを贈与すると、法律上、この敷金を返す義務もセットで新しいオーナー(受贈者)に引き継がれることになります。

 

つまり、アパートを贈与することは、自動的に敷金返還義務という借金を引き継ぐことになり、そのままでは法的に「負担付贈与」とみなされてしまうのです。

 

負担付贈与になると税金はどう変わる?

負担付贈与と判定されると、税金の計算ルールがガラリと変わります。負担付贈与では贈与したはずなのに、税務上は“売却した”と扱われるのです。

 

通常の贈与と負担付贈与の違い

通常の贈与は、贈与者が一方的に受贈者へ無償で財産を譲り渡すことですが、負担付贈与は財産を譲り渡す見返りに受贈者へ負担を求めるものであるため、次のような違いが生じます。

【通常の贈与と負担付贈与の違い】

通常の贈与 負担付贈与
受贈者の負担 なし 負担あり
契約 契約当事者の一方だけが相手方に対して債務(義務)を負う「片務契約」 当事者双方が互いに対価的な関係にある債務(義務)を負担する「双務契約」
不動産の評価 相続税評価額 通常の取引価格(時価)
贈与者の課税関係 なし 譲渡所得になる可能性

 

受贈者(子など)の贈与税が跳ね上がる

通常、不動産の贈与税は「相続税評価額」を基準に計算します。相続税評価額は、基本的に通常の取引価格(時価)の8割ほどに設定されているため、時価よりも低い評価額で贈与税の計算を行います。

 

一方で、負担付贈与になると、基準が「通常の取引価額(時価)」になるため、相続税評価額よりも高い評価額で贈与税の計算を行わなければなりません。税率が高い贈与税では、評価額が相続税評価額から時価になるだけで、支払額が数百万円単位で変わることも珍しくありません。

 

不動産の評価方法に関してはこちらをご覧ください。

 

 

贈与者(親など)に所得税がかかる可能性がある

負担付贈与では、あげる側にも税金がかかる可能性があります。なぜなら、債務(敷金やローン)を引き継いでもらった分は、実質的に「その金額で建物を売った」のと同じとみなされるためです。

 

もし、建物の購入時よりも、引き継いだ債務の方が帳簿上の価値(未償却残高)より大きい場合「譲渡所得税」という税金が発生します。(みなし譲渡)

 

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良かれと思った贈与で失敗した例

実務上でよく見られる負担付贈与の失敗例には、次のようなものがあります。

 

登記するだけで大丈夫だと言われた

不動産会社などから「住宅ローンも完済しているし、名義を変えるだけなら少しの贈与税だけで大丈夫ですよ」というアドバイスを受け、贈与税申告後に負担付贈与だったと発覚するケースも珍しくありません。

 

不動産会社や登記を行う司法書士の中には「敷金返還義務という目に見えない債務」が引き継がれていることまでは指摘しないことがあります。

 

「敷金」という現金の流れに気付かなかった

賃貸不動産のオーナーにとって「敷金」は、入居者から預かっているだけで「自分のお金ではない」という意識が強いものです。

 

そのため、アパートを贈与する際、建物だけを子に譲り、預かっている敷金は親の口座に残したままにするというミスが非常に多く発生します。

 

これは「借金(返還義務)だけを子に背負わせた」という典型的な負担付贈与とみなされてしまい、時価(通常の取引価額)で贈与税が課税されることになります。

 

贈与契約書に「敷金の取り扱い」を明記しなかった

契約書を交わしていても、贈与契約書の中に「敷金返還債務をどう処理したか」という記載が一切ない場合、実態として債務の承継があったと判断されてしまうおそれがあります。

 

実態として「建物は贈与するが、敷金を返す義務だけは引き継がせる」というニュアンスで受け取られてしまうと、負担付贈与に該当することになります。

 

負担付贈与を回避するための方法

アパートなどの贈与が負担付贈与に該当すると、高額な贈与税が生じるリスクがあります。この負担付贈与を回避するために最も有効な方法は「敷金と同額の現金を同時に渡す方法」です。

 

現金を贈与することで負担をチャラにできる

入居者から預かっている敷金が合計100万円あるのなら、アパートと一緒に「現金100万円」も子供に渡すことで負担をチャラにすることが可能です。

 

子供側は「100万円の返す義務(債務)」を引き継ぐ代わりに、「100万円の現金」をセットでもらっているため、実質的な負担がプラスマイナスゼロになります。この状態であれば、実質的に債務を負ったことにはならないため、通常の贈与(相続税評価額での計算)として認められるでしょう。

 

【国税庁】賃貸アパートの贈与に係る負担付贈与通達の適用関係

なお、この取り扱いが認められるかどうかは、金額・時期・契約内容・資金の動きが一貫しているかが重視されます。

 

同時に渡した現金に贈与税はかかる?

敷金と同額の現金を同時に渡すと「現金の100万円にも贈与税がかかって、結局高くなるのでは?」と感じるのはないでしょうか。

 

しかし、この現金100万円は、あくまで「将来入居者に返すためのお金を精算しただけ」とみなされます。つまり、受贈者が自由にしていい「利益」ではないため、この現金分については贈与税の対象外として取り扱われることが一般的です。

 

令和8年(2026年)の税制改正との関係性

令和8年度(2026年度)の税制改正では、貸付用不動産の「5年以内ルール」が制定される見込みです。

 

【5年以内ルール】

取得から5年以内の貸付用不動産を贈与・相続する場合、評価額を「時価(取得価額)の80%」にするという制度です。

 

つまり、負担付贈与にならなくても、「買ってすぐ贈与」の節税効果そのものが封じられる可能性があるのです。時期の判断には、これまで以上に高度なシミュレーションが必要になります。

 

詳しくはこちらをご覧ください。

 

Q&A

Q. 「負担付贈与」とは何ですか?

A. 財産を譲る代わりに、受贈者に一定の債務(ローン返済や敷金返還義務など)を負担させる贈与のことです。通常の贈与と異なり、不動産の評価額が相続税評価額ではなく、高い「贈与時の時価」で計算されるため、贈与税が重くなるリスクがあります。

 

Q. ローンがなくても「負担付贈与」になるのですか?

A. はい。「敷金」を預かっているアパート等の贈与は負担付贈与に該当します。敷金は将来入居者に返すべき「債務」とみなされるため、ローンがなくてもこの義務を引き継ぐだけで、不動産が時価評価され贈与税が高くなる可能性があります。

 

Q. 「負担付贈与」を回避して、贈与税を抑える方法は?

A. 一般的には、建物の贈与と同時に「預かっている敷金と同額の現金」をセットで処理することで、受贈者の実質的な負担がなくなり、負担付贈与に該当させないことが可能になります。

 

まとめ

賃貸不動産の贈与において、最も大切なことは「実態を整えること」です。

 

• 敷金という債務があることを認識する。
• 現金を同時に動かして、実質的な「負担」をなくす。
• それを贈与契約書と通帳の記録で証明できるようにする。

 

これらを怠ると、負担付贈与に該当し、重い贈与税の負担が生じてしまう可能性があります。

 

当事務所は、「不動産に強い税理士事務所」です。税務知識と不動産業界のノウハウを駆使して、皆様をサポートいたします。貸付不動産の贈与についてのご相談にも対応しておりますので、下記のお問い合わせフォームよりお気軽にご相談ください。

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渡邉 優

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この記事の執筆者:渡邉 優

「渡邉優税理士事務所」代表。相続の中でも“不動産にお困りごとを抱える相続”の対応を得意としている。

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