相続が発生した際には、相続財産の金額によって相続税が課税されます。しかし、相続税の他にも、その後の財産の利用方法によっては、思わぬところで金銭的な負担が増えてしまうケースがあります。それが「健康保険料の増加」です。
相続税と健康保険料は全く違うものであり、計算の仕組みも異なります。「知らなかった」「翌年になって急に健康保険料が増加して驚いた」といった後悔を防ぐためにも、この仕組みの違いを事前に理解しておくことが大切です。
ここでは「相続後に健康保険料が上がるケース」について相続税専門の税理士が詳しく解説します。
目次
相続税は亡くなった被相続人の財産を相続する際に発生する税金であるのに対し、健康保険料は、原則として前年の「所得」をもとに計算されます。
相続により取得した財産は、原則として「所得」に該当しません。相続によって預貯金や不動産といった財産を取得しただけでは、所得が増えたことにはならないため、健康保険料は増加しません。
ただし、相続した財産を売却して利益(譲渡所得)が出た場合や収益を生む形で利用した場合には所得が発生し、所得をもとに計算される翌年度の健康保険料が増額する可能性があります。特に、個人事業主や年金受給者の場合は「所得」の増加がダイレクトに健康保険料に影響を与えることになります。(会社員や公務員には影響がありません)
個人事業主や年金受給者が相続後に健康保険料が増加する主なケースは次のとおりです。
相続後に健康保険料が上がるケースで最も多いパターンが「相続した不動産(土地・建物)を売却し、売却益が発生した場合」です。
不動産を売却して得た利益は「譲渡所得」になり、次の計算式で求めます。
譲渡所得=不動産の売却金額−(取得費+譲渡費用)
※「取得費」は、被相続人がその不動産を購入したときの金額や仲介手数料などが該当します。
この譲渡所得がプラスになると、その年の所得全体が増加し、国民健康保険や後期高齢者医療制度に加入している場合は、この譲渡所得が算定基準に含まれるため、翌年の保険料が上がる可能性があります。
詳しくは「【不動産売却後の健康保険料に注意】譲渡所得と健康保険料の関係を解説!」をご覧ください。
賃貸マンションや駐車場といった、いわゆる「収益物件」を相続した場合、相続したその時から「継続的な家賃収入」が相続人の所得(不動産所得)になるため、保険料に影響を与える可能性があります。
国民健康保険・後期高齢者医療制度には「所得割」という区分があり、所得額に応じて保険料が決まります。家賃収入から必要経費(固定資産税や管理費など)を差し引いた「不動産所得」が他の所得に加算されることで、保険料が増加します。
会社員や公務員の扶養家族となっている方(健康保険・共済保険の被扶養者)の場合、相続した不動産の売却を行い、売却益が生じると扶養から外れてしまうおそれがあります。
協会けんぽなどの多くの保険組合では、一時的に発生した譲渡所得は年間収入に含めないことになっており、扶養から外れることはないものの、組合によっては譲渡所得を一時的な所得とみなさない可能性も考えられますので事前に確認しましょう。
また、賃貸マンションや駐車場の運用による不動産所得が生じるケースでは「継続的な収入」とみなされるため、扶養の要件である「年間収入が130万円未満」かつ「被保険者の年間収入の2分の1未満」を満たさなかった場合は扶養から外れることになります。
日本の相続税制度には、全ての相続人が利用できる「基礎控除」があり、この基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の人数)を超えなければ、相続税は発生しません。
遺産総額が基礎控除以下であれば相続税はゼロになるため、申告も不要となるケースが多いですが「相続税申告不要=安心」とは言い切れません。特に、個人事業主や年金受給者の方で不動産を相続し、後に売却を予定している場合には、相続税の心配がなくても翌年の健康保険料の負担が増える可能性が考えられます。
相続税がかからないケースであっても、実務上では、このようなケースをよく見かけます。
個人事業主で国民健康保険に加入しているAさん(60歳)が、親から実家を相続しました。遺産総額は基礎控除以下だったため、相続税はゼロ。相続した不動産を活用する方法も思いつかず、買い手がいたため、実家を売却しました。売却により1,000万円の譲渡所得(利益)が発生しましたが、所得税は納付済みです。
Aさんは所得税・住民税や相続税のことは理解していましたが、翌年の春になって届いた国民健康保険料の請求額の高さに驚きました。前年の譲渡所得1,000万円が所得として加算された結果、保険料の「所得割」部分が大幅に増加し、年間で数十万円規模の負担増となったのです。
このように、相続税の負担はゼロであっても、譲渡所得という「一時的な所得」が、保険料算定の基準となる「前年の所得」に計上されることで、トータルで見ると負担が増加してしまうこともあります。
相続では、相続税だけのことを考えてしまうと納税資金が足りなくなってしまう可能性があります。相続した財産の売却や不動産の運用を行えば所得税や住民税が課税され、個人事業主や年金受給者の場合は、所得に連動して健康保険料が増加します。
相続では、どの税金や保険料がどのタイミングで、どの程度発生するのか、全体像を俯瞰してシミュレーションする視点が非常に重要です。
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不動産の売却による健康保険料の急な増加を防ぐためには、売却益の発生を最小限に抑えることが基本的な対策になります。売却益を抑えるためには、次の方法が効果的です。
譲渡所得は売却価格−(取得費+譲渡費用)で計算されます。取得費に含めることができるものには、土地・建物の購入代金以外にも次のような費用が認められます。
【取得費に含めることができるもの】
・仲介手数料
・設備費
・リフォーム費用
・購入時に発生した税金(登録免許税、印紙税、不動産取得税など)
・購入時の借主立退料、契約違約金など
・整地費、測量費、建物取り壊し費用など
また、譲渡費用に計上できるものは次のとおりです。
【譲渡費用に計上できるもの】
・仲介手数料
・測量費
・建物解体費(売却のため)
・立退料
・契約書の印紙税
・借家人の明渡し費用
相続した被相続人の自宅を売却する場合には「居住用3,000万円控除」または「空き家3,000万円控除」を利用できる可能性があります。自宅の種類や相続人が同居か別居かの状況によって、利用できるかどうかを判断しなければなりませんが、利用することができれば大きく譲渡所得を軽減することができ、健康保険料の負担の増加も回避することが可能です。
詳しくは「【居住用3,000万円or空き家3,000万円】自宅の売却に関する特例を解説!」をご覧ください。
相続が発生すると相続税だけに着目しがちですが、その後の不動産売却のタイミングなどについて無計画に進めてしまうと、結果的に健康保険料の増加という形で、予想外の負担増に繋がりかねません。
「相続後に不動産の売却を検討している」といった場合には、トータルコストを最適化するためにも「不動産に強い相続税専門の税理士」に相談することをおすすめします。相続税申告書や譲渡所得の確定申告書の作成だけでなく、各種特例(3,000万円特別控除、取得費加算の特例など)の適用が可能かどうかの判断など、相続全体を捉えたサポートは不動産に強い税理士が適任です。
「うちには相続税はかからないから」「まだ売却する予定はないから」と専門家への相談をためらう方もいらっしゃるかもしれません。しかし、健康保険料への影響は相続税申告が必要ない層にこそ起こりやすい問題です。
不動産の売却は、一度実行してしまうと、その年の所得は確定してしまいます。売却前に譲渡所得のシミュレーションを行い、どれだけ保険料が上がる可能性があるのかを事前に把握しておくことが、後悔を防ぐための第一歩です
相続は、財産を次の世代へ引き継ぐ大切なプロセスですが、手続きは相続税申告だけでは完結しません。特に、不動産の売却や収益物件を引き継ぐ場合、相続税とは別に、翌年の健康保険料が所得の増加によって影響を受ける可能性があることを頭に入れておく必要があります。
当事務所では、相続税を専門に扱う不動産に強い税理士が、相続全体を見据えたアドバイスを行っています。初回相談では、現在の状況をお伺いしたうえで、必要な手続きや注意点を丁寧にご説明します。下記のお問い合わせフォームよりお気軽にご連絡ください。
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