不動産を売却する際には「タイミングが重要」です。もちろん、不動産価格の状況を見て判断することも大切ですが、不動産を売却する際に発生する所得税にも注目してみましょう。
「持ち家を売却する予定だが、今売却した方がいいのか、それとも相続後に息子の名義になってから売却した方がいいのか、どちらがいいのだろう」
最近、このようなご相談を受けることがあります。生前に居住されている持ち家を売却する場合には、所得税の特例である「居住用3,000万円控除」を利用することができます。相続後に相続人が持ち家を売却する場合には、要件を満たすことで「空き家3,000万円控除」を利用することが可能です。
この同じような2つの特例ですが、持ち家の種類や相続人が同居か別居かの状況によって、利用できる場合と利用できない場合があります。
「空き家3,000万円控除を受けられると思っていたが、要件を満たしておらず、多額の所得税を支払わなければならなくなった。相続前に売却しておけば居住用3,000万円を利用できたのに、、、」
こういった事態にならないように、ここではケース別で利用できる特例をご紹介します。
各制度の詳細についてはこちらをご覧ください。
目次
居住用3,000万円と空き家3,000万円のどちらの特例が利用できるかは主に2つの要素で判断していきます。1つ目は、対象の自宅が「一戸建てかマンションか」です。2つ目は、対象の自宅を相続する人が被相続人と「同居か別居か」です。まずは下記のフローチャートを確認してみましょう。
対象になる住宅がマンションなどの区分所有登記がされた建物の場合には、空き家3,000万円控除の特例を利用することはできません。空き家3,000万円控除は「一戸建てのみ」が対象になります。
居住用3,000万円控除の特例については、マンションでも利用することが可能です。結論としては、自宅がマンションの場合は生前に売却し、居住用3,000万円控除を利用した方が相続後に売却するよりも所得税は有利になります。
ただし、特例により減額になる所得税額と売却により増加する現金にかかる相続税額のバランスを考慮して意思決定することが重要です。特に、時価と相続税評価額の金額に大きな乖離がある場合には注意しましょう。
例えば、対象になる自宅の時価(売却額)が1億円、相続税評価額が4,000万円の場合はどうでしょうか。
生前に売却することで居住用3,000万円控除が利用できるため、3,000万円×税率20.315%=6,094,500円(長期譲渡所得の場合)の税金を減らすことができます。
一方で、自宅を売却しなければ相続財産として4,000万円が相続税の対象になりますが、売却したことにより1億円の現預金が相続財産となります。つまり、売却したことにより相続財産が6,000万円(1億円-4,000万円)増加したことになります。
相続税の税率は財産総額によって異なりますので一概には計算できませんが、仮に相続税率が20%だとすると、6,000万円×20%=1,200万円になります。この場合、居住用3,000万円控除により、所得税を約600万円減らすことができましたが、相続税額は1,200万円増加することになり、結果的に生前に自宅を売却した方が税金の負担が大きくなってしまいます。
マンションの場合であっても、生前に売却を行うと税金面で不利になることもあります。事前によく検討しましょう。
対象の住宅が一軒家の場合、その住宅を相続する相続人が被相続人と同居しているか、それとも別居しているのかによって利用できる特例が異なります。
一軒家の自宅に相続人と同居しており、相続発生後(亡くなった後)にその相続人が住み続ける場合には居住用3,000万円控除が利用できます。相続発生前と相続発生後では納税者が異なりますが、どちらでも居住用3,000万円の特例を受けることが可能です。
例えば、父と長男が同居している一軒家をイメージしてみましょう。生前に自宅を売却する場合、所有者である父が譲渡所得の申告を行い居住用3,000万円の特例を利用することができます。相続発生後に売却するケースでは、相続した長男が自宅を売却することになりますので、長男が譲渡所得の申告を行い居住用3,000万円の特例を受けることができます。
相続前でも相続後でも居住用3,000万円の特例を利用することはできますが、自宅の時価(売却額)と相続税評価額が大きく乖離する場合(相続税評価額が時価よりも低い場合)は相続後に売却した方が有利になることが多いです。
また、亡くなった日から3年10か月以内に自宅を売却する場合は「取得費加算の特例」を併用することができ、さらに所得税の負担を軽減することが可能です。納税資金との兼ね合いもありますので、自宅をいつ売却するのかについては慎重に検討する必要があります。
一軒家の自宅があり、相続人と別居しているケースです。父が自宅に住んでおり、長男が賃貸マンションに住んでいて相続後の賃貸マンションに住み続けるケースをイメージすると分かりやすいと思います。
このケースでは、生前に父が売却すると居住用3,000万円の特例を利用でき、相続発生後に長男が売却すると要件を満たすことで空き家3,000万円控除を利用することが可能です。
生前に売却する際の居住用3,000万円控除は比較的要件が緩いのに対し、相続後に売却する際の空き家3,000万円控除は要件が少し厳しくなっています。要件を満たしているかどうか、しっかりチェックすることが重要です。
空き家3,000万円控除の詳細はこちらをご覧ください。
相続人が別居しているケースでは、生前の売却、相続後の売却、どちらでも特例を利用できる可能性がありますが、空き家3,000万円控除の要件を満たし、相続人が2人以上の場合には相続後の売却が有利になる場合があります。
空き家3,000万円控除は「各相続人が利用することが可能」です。つまり、一軒家の自宅を複数の相続人が共有で相続して売却するケースでは、各相続人が空き家3,000万円控除を利用することができるのです。譲渡所得が大きくなる場合には大変有効な方法です。なお、空き家3,000万円控除と取得費加算の特例を併用することはできません。
令和5年度税制改正により、複数人で相続空き家の3,000万円特別控除を利用する場合の上限が設けられています。
3人以上で特別控除を利用する場合は、1人あたりの控除額の上限は2,000万円となります。
空き家3,000万円控除は複雑です。当事務所でご相談を承っておりますので、詳しくはお問い合わせください。
自宅を売却する際の所得税の特例は、自宅がマンションなのか一軒家なのかによって異なります。一軒家の場合は、相続人と同居なのか別居なのかによって異なります。そのため、生前に売却した方がいいのか、それとも相続後に売却する方がいいのかはケースバイケースですので、ご家庭の状況や財産を総合的に判断しなければなりません。
また、自宅の売却は相続税にも影響を与えるため「小規模宅地等の特例が利用できるかどうか」「取得費加算がどれくらいか」「相続税の納税資金を確保できるのか」などの要素も検討しなければなりません。
ここまで自宅を売却した場合の税制をご紹介いたしましたが、税金よりも考えなければならないことは親の生活環境や老後の生活資金についてです。
「思い出が詰まった自宅でずっと暮らしたい」という方もいれば「老後の生活資金に充てるため自宅を売却したい」という方もいらっしゃると思います。自宅の売却を検討される場合は、ご家族でよく話し合い、両親にとって一番いい形になるように心がけるべきだと思います。
自宅の売却時期を決めるには、現在住まわれている方の想いを重視して進めていく必要があります。そのうえで「いつ売却した方がいいのか」とお悩みの際は、ぜひ当事務所にお問い合わせください。
当事務所では、不動産の売却活動に関わるすべての業務を窓口一つでサポートします。測量の立ち合いや遺品整理、残置物撤去などの現地で行う作業から不動産売買手続き、その後の所得税の確定申告に至るまで、全ての業務に責任をもってお引き受けいたします。
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監修者情報
この記事の執筆者:渡邉 優
「渡邉優税理士事務所」代表。相続の中でも“不動産にお困りごとを抱える相続”の対応を得意としている。