インターネット銀行の口座や仮想通貨などのデジタル遺産の生前整理は、残された家族を相続トラブルや金銭的損失から守るために最も重要な終活の一つです。
デジタル資産は実体のない情報であるため、整理せずに放置すると、相続人がその存在に気づかず申告漏れを起こしたり、アクセスできずに資産が凍結したりといった、深刻なトラブルを引き起こすリスクが非常に高くなります。
そのため、インターネット上の金融資産だけでなく、動画配信サービスなどのサブスクリプションの解約、SNSアカウントの処理、そして思い出のデータや機密情報の整理が欠かせません。
これらすべての資産とアクセス情報(ID・パスワードなど)をリスト化し、安全な方法で家族に共有しておく必要があります。
デジタル終活を実践することは、家族への最後の思いやりであり、遺族がスムーズに相続手続きを進めるための効果的な対策となります。
目次
デジタル遺産とは、故人がインターネット上やデジタル機器に遺した、財産的価値のある資産や、デジタルデータのことです。
従来の相続財産である不動産や通帳預金と異なり、物理的な形を持たないため「見えない遺産」とも呼ばれています。
現代では多くの人がスマートフォンやパソコンなどのデジタル機器を持ち、あらゆるモノやサービスがデジタル化・オンライン化しているため、故人がデジタル遺産を所有している可能性は高いでしょう。
デジタル遺産には、主に以下のようなものがあります。
デジタルサービスは多岐にわたるとともに、日々進化しているため、デジタル遺産となるものはまだまだ増えていくでしょう。
デジタル遺産を放置することで、残されたご家族に次のような影響が生じると考えられます。
ここでは、実際に起こりうる「トラブル事例5つ」を紹介します。
デジタル遺産の存在に気づかないことで、故人が生前に所有していた金融資産をそのまま放置することになり、遺族が本来受け取れるはずの財産を得られないトラブルが発生します。
デジタル資産の最大の問題は、その存在が目に見えないことです。インターネット銀行・証券、仮想通貨、電子マネーなどの資産は、通帳や紙の明細書などが発行されないため、遺族は存在そのものに気づけないかもしれません。
スマートフォンやパソコンにアプリがあれば口座の利用を知ることができますが、そもそもスマートフォンやパソコンにログインできなければ、永遠に気づかない可能性もあります。
デジタル遺産の存在に気づかないと、故人が築き上げた財産を活用できないばかりか「家族に生活資金として預金を残したい」などの、デジタル遺産に込められた故人の想いを受け継ぐこともできないでしょう。
デジタル遺産の存在に気づいても、パスワードや秘密鍵(仮想通貨取引で使われる長い文字列のパスワードのようなもの)がわからずログインできない場合、資産口座が凍結され、必要な資金をすぐに手にできないトラブルに発展する可能性があります。
近年、デジタル遺産は、複雑なIDとパスワード、そして二段階認証で守られていることが多い状況です。特に、仮想通貨のように秘密鍵が唯一のアクセス手段となる資産の場合、この情報がなければ引き出しはできません。
また、インターネット銀行・証券は、名義人の死亡が確認されると口座が凍結されます。
相続手続きには厳格な本人確認が求められるため、アクセス情報が不明だと手続きが進まず、必要な資金の引き出しや相続手続きが滞る恐れがあるでしょう。
仮想通貨は価格変動が激しいため、相続時点の価格が非常に高い場合、相続税が高額になることや、相続後に売却して高額な所得税が発生することが考えられます。
仮想通貨は相続日時点の時価に基づいて評価され、相続税(最高55%)が課税されます。
たとえ相続後に価格が暴落しても、納税額が変わることはありません。仮想通貨を納税資金に充てようとしても、価格が暴落していれば納税額に満たないケースもあるでしょう。
また、故人が仮想通貨取引で利益を得ていた場合、準確定申告で所得税を納める必要がありますが、取引履歴にアクセスできなければ正確な申告ができません。
さらに、複数の取引所で仮想通貨の取引をしていたり、仮想通貨を個人ウォレット(デジタル化した財布や金庫のような場所)で管理していたりすると、すべてを把握することが難しく、申告漏れによる追徴課税のリスクも高まります。
相続人間で遺産分割協議を終えた後に、新たなデジタル遺産が発見されると、協議のやり直しが必要になり、大きな手間や金銭的負担が発生します。
遺産分割協議は、相続人全員の合意が必要です。協議を終えてからデジタル遺産が見つかった場合、デジタル遺産を含めて遺産分割協議をやり直し、再度、全相続人の同意を得る必要があります。
遺産分割協議書の作り直しには、時間や労力面で大きな負担がかかります。また、分割割合が大きく変わった場合は、相続人間のトラブルに発展する可能性も否めません。
なお、すでに相続税の申告を済ませていた場合、修正申告や更正の請求といった手続きが必要になり、税理士費用などの追加コストが発生する可能性もあります。
デジタル遺産には、放置することで資産としての価値を失ったり、新たな負債を生み出したりするリスクもあります。
たとえば、FX口座や信用取引をしていたインターネット証券口座を故人が保有していた場合、相場の急変により損失が拡大し続ける危険性があります。
レバレッジをかけた取引では短期間で多額の損失が発生し、相続人が予想外の借金を背負うことになるかもしれません。
また、故人が契約したサブスクリプションサービス(動画配信や音楽、オンラインゲームなど)は、解約しない限り、故人の銀行口座やクレジットカードから毎月自動で料金が引き落とされ続けることがあります。
さらに、放置されたSNSアカウントが乗っ取られ悪用されると、相続人が責任を問われるリスクも否定できません。
デジタル遺産を生前整理するのには、主に、5つの理由があります。
遺された家族がデジタル遺産に関するトラブルに巻き込まれないための対策を、理解しておきましょう。
デジタル資産を生前に整理しておくことで、相続人は故人の財産全体を正確に把握できるため、資産の凍結や紛失を防げます。
また、後からデジタル遺産が見つかることによる、相続税の申告漏れや遺産分割協議のやり直しといったトラブルも回避できるでしょう。
すべてのデジタル資産と、そのアクセス情報(ID・パスワードなど)を安全にリスト化・保管することで、相続人が一目で財産を把握することが可能です。
さらに、資産の全容がわかることで、相続人間の不公平感や疑念も生まれにくくなります。特に複数の相続人がいる場合、情報共有は円滑な相続手続きに不可欠です。
デジタル資産の生前整理をしておくと、故人の死後に、サブスクリプションサービスの支払い停止の手続きをスムーズにおこなえます。
動画配信や音楽配信、クラウドサービスなどのサブスクリプション(継続課金型サービス)は、解約手続きがあるまで自動更新されるため、故人の死後も延々と料金が引き落とされます。
生前に契約中のサービスをすべてリストアップし、解約の意思表示とともにIDやパスワードを安全な方法で保管しておくことで、故人の死後、速やかに解約手続きができ、支払い停止までスムーズに進めることが可能です。
不要なデータや家族に見られたくない内容は確実に消去する、残したいデータは安全な場所にバックアップを取るなどのデータ整理により、情報流出とデータ紛失を防ぐことが可能です。
クラウドストレージやメールアカウントには大量の個人情報や機密情報が保存されており、不適切な保管・管理はアカウントの乗っ取りによる情報流出や、サービスの自動削除による重要データの喪失といった重大なリスクにつながります。
大量に保存されているデータが整理されることで、故人のプライバシーを守りながら、遺族に必要な情報だけを安全に、かつ、確実に伝えることができるでしょう。
スマートフォンやクラウドに保存されたデジタル情報を生前整理することで、故人と家族に安心をもたらすことができます。
故人にとっては、見せたい情報と見られたくない情報を事前に仕分けできるため、プライバシーが守られます。
また、整理されたデータにより故人の人間関係を把握できるため、残された家族は、友人や知人へ葬儀の連絡をスムーズにおこなえるでしょう。
さらに、思い出の写真や動画は、残された家族が故人を偲び、心の整理をつける大きなきっかけにもなります。
SNSアカウントの生前整理は、アカウント乗っ取りやなりすましを防ぐために必須の対策です。
使用していたアカウントを放置すると、第三者に乗っ取られる(ハッキングされる)リスクがあり、その結果、なりすましによる詐欺行為や不適切な投稿がおこなわれる可能性があります。
生前に、SNSの「アカウント削除」や「追悼アカウントへの切り替え」といった手続きを明確にしておくことで、遺族は故人の死後速やかに対応し、名誉毀損や友人への二次被害といったトラブルを回避することができます。
デジタル終活は難しそうに感じるかもしれませんが、段階的に進めれば誰でも実践できます。
ここでは、今日から始められる具体的な4つのステップを紹介します。このプロセスを通じて、自分のデジタル資産を整理し、家族に負担をかけない準備を整えましょう。
各ステップは数週間から数ヶ月かけてゆっくり進めても構いません。大切なのは、完璧を目指すことではなく、まず一歩を踏み出すことです。
まずは、自分が所有しているすべてのデジタル資産を、棚卸し(リスト化)して、「何が、どこに、どれくらいあるか」を「見える化」していきましょう。
スマートフォンやパソコン内にある資産だけでなく、インターネット上に存在するサービスも対象です。
具体的には、インターネット銀行・証券、仮想通貨(暗号資産)取引所、電子マネー、サブスクリプションサービス、SNSアカウント、メール、クラウドストレージなどを、漏れなく一覧に書き出しましょう。
メールの受信履歴やクレジットカードの明細から定期的な支払いを洗い出すことも有効です。
リストアップしたデジタル資産を、生前の意思を反映させて、家族に「残すもの」「消去するもの」に仕分けします。
思い出の写真や重要な文書は「残す」、プライベートなメッセージや見られたくない情報は「消去」と、自分の想いを基準として分類していきましょう。
財産的価値のあるもの(インターネット銀行口座など)は「残す」、利用規約で相続できないポイントや、使っていないサブスクリプションサービスは「消去」するなど、家族に引き継げるものかという基準で仕分けることも大切です。
また、SNSアカウントは「消去」するのか、追悼アカウントとして「残す」のか、明確に決めておくことが重要です。家族が処理に迷わないよう、整理できるものは積極的に処分しましょう。
「残すもの」に分類したデジタル資産のID・パスワードを、セキュリティ性の高い方法で記録し、故人の死後に信頼できる家族だけがアクセスできる仕組みを作ります。
※マスターパスワード・・・パスワード管理アプリに保存された情報を管理するための親となる鍵
いずれの方法も、パスワードなど特別な情報を家族が知っていることが必要です。特別な情報を「秘密の場所」に保管し、その場所だけを家族に伝えることでさらに安全性が高まるでしょう。
デジタル資産の整理や保管ができたら、信頼できる人に「情報にアクセスする方法」を伝えましょう。
一般的には、配偶者や子どもなど、最も信頼できるキーパーソンに伝えます。
すべての情報を今すぐ共有する必要はありません。「エンディングノートの保管場所だけを伝える」「自分の死後に見てほしい」といった伝達をしておきましょう。
また、遺言書に「情報にアクセスする方法」を記し、弁護士などに預けておく方法もあります。
重要なのは、自分に何かあったときに、家族が必要な情報にたどり着けるようにしておくことです。
デジタル遺産は、現代社会において避けてとおれない相続の課題です。
放置すれば、相続人が資産の存在に気づかない、ログインできず凍結される、高額な税金が発生する、遺産分割協議がやり直しになる、損失を受けるといった深刻なトラブルが起こる可能性があります。
これらを防ぐためには、生前にデジタル資産を整理し、家族がアクセスできるように準備しておくことが不可欠です。
デジタル終活は、「棚卸し」「仕分け」「記録・管理」「伝達」の4ステップで実践できます。
完璧を目指さず、今日からできることから始めましょう。
パスワード管理アプリの導入、使っていないサービスの解約、エンディングノートへの記録など、小さな一歩が家族の大きな安心につながります。
デジタル遺産の管理は、自分自身のためでもありますが、何より残された家族を守るための行為です。愛する人たちを不要なトラブルから守り、スムーズに思い出を受け継いでもらうために、今こそデジタル終活を始めてみませんか。
当事務所では、デジタル遺産の生前整理に関するご相談も承っております。生前対策をご検討の際は、以下の問い合わせフォームより、お気軽にご連絡ください。
A. 原則として、できません。携帯電話会社やメーカーは、プライバシー保護の観点から、たとえ家族であっても、契約者本人以外のロック解除依頼には応じないケースがほとんどです。生前にロック解除の方法(パスコードや生体認証の代替手段)を家族と共有しておく対策が不可欠になります。
A. 故人のスマートフォンやパソコンの閲覧履歴、メールの受信トレイ(銀行からの通知、サブスクリプションの請求メールなど)、クレジットカードの明細、郵便物などを地道に確認する方法が基本となります。最も確実なのは、本人が生前に「エンディングノート」や資産リストにまとめておくことです。
A. エンディングノートとは、自分に万が一のことがあった場合に備え、家族や友人に伝えておきたい情報(資産状況、医療・介護の希望、葬儀の希望、大切な人へのメッセージなど)を書き留めておくノートのことです。デジタル遺産のID・パスワードや契約サービス一覧を記載する項目もあり、「デジタル終活」において非常に有効な手段になります。ただし、遺言書のような法的な拘束力はありません。
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