結婚観の変化、女性の社会進出などにより、現代では離婚や再婚は珍しいことではありません。しかし、元配偶者との間に子どもがいる場合には、元配偶者が亡くなった相続で予期せぬトラブルが生じてしまうケースもあります。
特に、元配偶者が再婚している場合には「会ったことのない相続人」と話し合いが必要になる場合があるため、相続人にとって大きな精神的負担になってしまうこともあるでしょう。
ここでは「離婚後の相続に関する基本的なルールとトラブルを未然に防ぐための対策」について詳しく解説します。
目次
離婚を経験された方の相続は、関係性の薄い相続人がいるケースが多く、通常の相続よりも複雑でトラブルになりやすい傾向があります。その理由を見ていきましょう。
離婚すると、夫婦は法律上お互いに他人になるため、元配偶者は財産(権利や義務)を法的に引き継ぐことができる権利である「相続権」を失います。しかし、元配偶者の間に子どもがいる場合には、親と子どもの血のつながり(親子関係)は解消されることはなく、子どもは相続権を持ち続けます。
子どもの親権がどちらにあるか、あるいは何十年も会っておらず疎遠であったとしても、この相続権に影響はありません。
亡くなった方に再婚後の配偶者や子どもがいる場合、元配偶者との間の子どもも現在の家族と対等な立場で相続人となり、相続財産の分割について協議を行う必要があります。
再婚後の配偶者や子どもと元配偶者の子どもは今まで接点を持ったことがないというケースが多く、会ったことが一度もない者同士で遺産分割協議を進めなければならず、どうやって進めればいいのかが課題になることも珍しくありません。
亡くなった元配偶者が再婚していた場合、相続人は現在の配偶者と全ての子どもになります。ここで重要なのは、現在の配偶者の子どもと元配偶者の子どもの相続分は平等であるという点です。ケース別に見てみましょう。
上記のケースでは、現在の配偶者(再婚相手)の相続分は1/2となり、残り1/2を元配偶者との子どもと再婚相手との子ども2人で均等に分けることになります。
相続人は「現在の配偶者」と「元配偶者との子ども」のみとなり、法定相続分は現在の配偶者1/2、元配偶者との子ども1/2になります。
連れ子は血のつながりがないため、原則として相続人になれません。ただし、連れ子と亡くなった方が養子縁組をしていた場合には、実子と同様に相続権が生じます。連れ子への相続を検討している場合は、生前に養子縁組を行う必要があります。
「長年疎遠だった元配偶者の子どもに財産を渡したくない」と考える方もいらっしゃると思います。「前妻との子どもに相続させたくない」という場合には、生前からの対策が極めて重要です。
遺言書を作成することが、相続財産の配分を指定する最も有効な方法です。 遺言書に「現在の配偶者と子に全財産を相続させる」という内容を記載すれば、原則としてその内容に従って相続が行われ、元配偶者の子へ財産が相続されることを避けることができます。また、遺言書があることで相続人全員での遺産分割協議を行う必要もなくなります。
ただし、遺言書の内容が必ずしも実現するわけでなく、相続人には法律上最低限保障されている遺産の取り分である「遺留分」があるため注意が必要です。
生前に現在の配偶者や子に財産を贈与することで、相続発生時の相続財産を減らすことができます。ただし、亡くなる前の10年以内に行われた相続人への贈与は、遺留分の計算対象に加えられる(持ち戻される)ため、早期に実施することが重要です。(2019年民法・相続法の改正)
元配偶者との子どもであっても、法定相続分の1/2の遺留分があります。遺言書や遺産分割協議によって元配偶者との子どもの遺留分が侵害された場合、他の相続人に対して侵害された分を金銭で請求する「遺留分侵害額請求」を行うことができます。この遺留分侵害額請求が、相続トラブルの大きな原因になりますので、遺言書を作成する場合や遺産分割協議を行う際には十分な配慮が必要です。
受取人を現在の配偶者や子に指定した生命保険は、原則として遺産分割の対象外にあり、遺留分侵害額請求の対象にもなりにくいため、有効な遺留分対策の資金として活用することができます。
離婚経験のある方が亡くなった場合の相続手続きでは、元配偶者との間に子どもがいないかどうか、子どもがいる場合には、その子どもの居場所の特定が求められます。居場所が分からず、連絡が取れない場合には相続人全員での遺産分割協議を成立させることができないため、相続手続きを進めることができません。
元配偶者の子どもの居場所を特定するには「戸籍の附表」を取得するところから始めます。戸籍の附表とは、その戸籍が作られてから現在までの住所の移り変わりを記録したものであり、元の本籍地から始まり現在に至るまでの住所の変遷を確認することができます。
元配偶者の子どもの戸籍の附表を取得することで、現在地の住所が分かり、手紙を送付して交渉を始めることができます。
元配偶者の子どもと全く面識がなく、自分で連絡することに心理的な負担がある場合や手紙を送っても反応がない場合などは、弁護士など相続問題に詳しい専門家に相談してみましょう。専門家からの連絡は信頼されやすく、交渉がスムーズに進む場合もあります。
どうしても連絡が取れない、あるいは行方不明の場合は、家庭裁判所に申し出て「不在者財産管理人」を選任してもらう必要があります。選任された不在者財産管理人は、行方不明の相続人に代わって遺産分割協議に参加することになるため、相続手続きを進めることができます。
離婚後の相続で紛争を避け、現在の家族の安心を守るためには、生前からの周到な準備が不可欠です。
遺留分に配慮した遺言書の作成は、最も重要かつ取り組みやすい対策です。遺言書には「全財産を現在の配偶者とその子に相続させる」と書くのではなく、元配偶者の子に遺留分相当額のみを相続させる内容にしておくことで、死後に「遺留分侵害額請求」をされるリスクを大きく軽減し、円滑な相続に導くことができます。
相続財産を正確に把握することは、残された相続人にとって非常に大変な作業です。 生前に不動産、預貯金、株式などのプラスの財産と借金やローンなどのマイナスの財産を正確に記載した財産目録を作成しておくことで、遺言書に記載のない財産を巡る争いや他の相続人による財産隠しへの不信感といったトラブルを防ぐことができます。
もし、元配偶者の子どもと相続トラブルになり、遺留分侵害額請求を受けた場合のために現在の配偶者や子どもを受取人とする生命保険に加入しておくことをおすすめします。生命保険金は原則として遺産分割の対象外のため、確実な資金源とになります。
A.相続放棄をすれば、その人は初めから相続人ではなかったとみなされるため、遺産分割協議に参加する必要がなくなり、手続きは非常にスムーズになります。しかし、相続放棄は強制することはできません。
A.遺留分侵害額請求権には2つの時効があります。
1. 相続の開始(死亡)と、遺留分が侵害されていることを知った日から1年
2. 相続開始から10年 この期限を過ぎると、遺留分を取り戻す権利は失われます。
離婚経験のある方が亡くなった場合の相続は、元配偶者の子どもが相続人になるため、相続人の関係が複雑になりやすく、相続人確定、遺産分割協議、遺留分侵害額請求などでトラブルに発展してしまうおそれがあります。
相続トラブルの回避や煩雑な手続き(疎遠な相続人調査、未成年者の特別代理人選任、遺留分に配慮した遺言書作成など)のサポートには、法律と税務の両方に精通した実績豊富な税理士や弁護士などの専門家への早期の相談が不可欠です。
当事務所では、相続トラブルを回避するための生前からのご相談についても対応しております。将来の相続について不安な場合は、まずは以下の問い合わせフォームより、お気軽にご連絡ください。
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この記事の執筆者:渡邉 優
「渡邉優税理士事務所」代表。相続の中でも“不動産にお困りごとを抱える相続”の対応を得意としている。