相続人がいない空き家は、清算人による債務の清算や特別縁故者への財産分与を経て、残った財産が国庫に帰属します(民法959条)。ただし、相続放棄をしても、放棄の時に空き家を現に占有していた人には、清算人などに引き渡すまで保存義務が残ります(民法940条1項)。トラブルを避けるには相続財産清算人の選任が有効です。
「身寄りのない親族が亡くなり、古い家だけが残った」「自分以外に相続人がおらず、空き家を引き継ぎたくない」
こうしたご相談では、「誰も相続しない家は最終的にどうなるのか」「相続放棄すれば管理しなくてよいのか」が必ず問題になります。
結論から言うと、相続人がいない空き家は最終的に国のものになります。しかし、それまでには清算手続が必要で、放置すれば固定資産税の通知や近隣への損害賠償といった問題が現実に起こり得ます。本記事では、空き家の行き先、相続放棄後に残る責任、清算人の手続きと費用、税理士の視点で見た税務上の注意点を解説します。
※本記事は一般的な解説です。個別の税務・法律判断は専門家にご相談ください。
相続人がいない場合、被相続人の財産は「相続財産法人」という法人になります(民法951条)。この法人の財産を管理・清算するのが、家庭裁判所が選任する相続財産清算人です。国庫帰属までの流れは次のとおりです。
| 順序 | 手続き | 期間・根拠 |
|---|---|---|
| ① | 清算人の選任と相続人捜索の公告 | 公告は6か月以上(民法952条) |
| ② | 債権者・受遺者への請求申出の公告 | 2か月以上、①の期間内に満了(民法957条1項) |
| ③ | 債権者・受遺者への弁済 | 空き家は必要に応じて売却して換価 |
| ④ | 相続人不存在の確定 | 捜索公告の期間満了(民法958条) |
| ⑤ | 特別縁故者への財産分与 | 期間満了後3か月以内に申立て(民法958条の2) |
| ⑥ | 残余財産の国庫帰属 | 民法959条 |
大切なのは、「相続人がいない=空き家がすぐ国の所有になる」わけではないという点です。国庫に帰属するのは、債権者への弁済や特別縁故者への分与を終えてもなお残った財産です。
また、亡くなった方が空き家を他の人と共有していた場合、特別縁故者への分与がなければ、その持分は他の共有者に帰属します(民法255条)。
どちらも最終的には「相続人不存在」として同じ手続きに進みますが、空き家との関わり方が異なります。
| 最初から相続人がいない | 相続人全員が相続放棄した | |
|---|---|---|
| 状況 | 配偶者・子・親・兄弟姉妹(代襲者を含む)が誰もいない | 相続人はいるが、全員が家庭裁判所で放棄した |
| 空き家の管理者 | 誰もいない状態 | 放棄時に空き家を現に占有していた人には保存義務が残る |
| 清算人の必要性 | 必要 | 必要になることがある |
特に後者は、「放棄すれば終わり」と考えてしまいがちです。放棄後も保存義務が残る場合があるため、詳しくは第3章で解説します。
☆あわせて読みたい
では、この清算を担う「相続財産清算人」とは、どのような人なのでしょうか。
2023年4月施行の改正民法により、名称が「相続財産清算人」に変わりました。また、公告手続きが合理化され、相続人捜索などの公告期間が約6か月に短縮されました(不動産売却等を含めた全体では1年以上かかることもあります)。
申立てができるのは、利害関係人(債権者、特別縁故者、保存義務を負う相続放棄者、市区町村など)または検察官で、管轄は被相続人の最後の住所地の家庭裁判所です(民法952条1項)。申立てには被相続人の出生から死亡までの戸籍などが必要で、戸籍の収集が最も手間のかかる作業です。
費用は、申立て時の実費と予納金に分かれます。
| 項目 | 金額の目安 |
|---|---|
| 申立手数料(収入印紙) | 800円 |
| 連絡用の郵便切手 | 1,000円〜3,000円程度(裁判所により異なる) |
| 官報公告料 | 5,000円台 |
| 予納金 | 数十万円〜100万円程度(事案により異なる) |
| 司法書士等への申立書作成報酬(依頼する場合) | 数十万円程度 |
予納金は、すべてのケースで一律に必要になるわけではありません。現金・預貯金が少ないなど、清算人の報酬や管理費用を相続財産で賄えない見込みのときに、裁判所が必要と判断して納付を求めます。
清算人の報酬は、原則として相続財産の中から支払われます。ただし、相続財産だけでは足りない場合は予納金から充てられるため、実質的には申立人の負担になります。反対に、空き家をうまく売却して費用を回収できれば、予納金の全部または一部が返還されます。
たとえば京都府京丹後市の事例では、相続人がいないと思われる空き家について市が相続財産管理人(当時の名称)の選任を申し立て、予納金60万円を納付しました。その後、空き家が売却されたため、予納金は全額還付されています。
☆あわせて読みたい
💡 空き家の放置リスクや清算人の要否、一度整理してみませんか?
\ 相続・税務のプロが回答します /
受付時間 10:00~18:00(月〜金)
改正民法940条1項は、次のように定めています。
相続の放棄をした者は、その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、相続人又は第九百五十二条第一項の相続財産の清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存しなければならない。
ポイントは3つです。
「現に占有」とは、その家を事実上支配・管理している状態をいいます。被相続人と同居していたり、別居でも鍵を持ち定期的に清掃・草むしりなどをしていた場合は「現に占有」と評価される可能性が高いです。一方、長年別居し、管理の実態がない場合は当たりません。判断が分かれやすいため、自己判断せず専門家に相談することをおすすめします。
保存義務は、財産を処分したり積極的に改良したりする義務ではなく、財産の滅失や損傷を防ぐための保存を目的としたものです。
なお、相続人全員が放棄した場合は、引き渡す先の「次の相続人」がいません。清算人が選任されて引き渡さない限り、保存義務は終わりません。これが、全員放棄の場合に清算人の選任が重要になる理由です。
また、相続放棄の期限は「自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内」です(民法915条1項)。空き家の状況調査に時間がかかる場合は、この期間内に家庭裁判所へ熟慮期間の伸長を申し立てることができます。
☆あわせて読みたい
民法940条とは別に、民法717条(土地工作物責任)にも注意が必要です。建物の欠陥(屋根瓦の飛散や塀の倒壊など)で他人に損害を与えた場合、その建物の「占有者」や「所有者」が損害賠償責任を負います。
相続放棄をした人でも、放棄時に空き家を現に占有していれば「占有者」として責任を問われる可能性があります。一方、現に占有していない相続放棄者は、原則として717条の責任を負う立場にはありません(個別事情により判断が異なる場合があります)。
では、相続人がいない空き家を手放すには、どのような選択肢があるのでしょうか。
相続人がいない空き家を手放す最も確実な方法は、家庭裁判所に清算人の選任を申し立てることです。清算人が選任されると、財産の管理、債権者への弁済、空き家の売却などを法的に安全な形で進められ、保存義務を負っていた人も、清算人に引き渡すことで、民法940条の保存義務を終わらせることができます。
清算人の選任前に、元相続人が勝手に寄付や売却を進めることはできません(所有権は相続財産法人にあるため)。選任後なら清算人から打診できますが、自治体に利用目的がない限り寄付は断られるのが実態です。
不要な土地を国に引き取ってもらえる「相続土地国庫帰属制度」ですが、建物が存在する土地は原則として承認申請できません(更地にする等の要件を満たす必要があります)。また、この制度は「相続によって土地を取得した相続人」が申請する制度のため、相続人がいない空き家にはそもそも使えません。制度の詳細は以下の記事をご覧ください。
☆あわせて読みたい
ここまでは民法上の話でした。次は、税理士の視点で見た税務上の注意点を解説します。
固定資産税は、毎年1月1日時点の所有者に課税されます(地方税法343条)。相続放棄によって相続人としての地位を失うため、相続人として固定資産税を負担することにはなりません。
ところが、市区町村の課税台帳には相続放棄の情報が自動的には反映されません。被相続人の死亡後、最初の1月1日までに名義が変わっていないと、相続放棄をした人や遠縁の親族に納税通知書が届くことがあります。
通知が届いたときは、次のように対応してください。
清算人が選任された後は、固定資産税などの費用は相続財産の中から支払われます。放棄した人が自腹で支払う必要はありません。なお、固定資産税が滞納されたまま放置されると、市区町村が自ら利害関係人として清算人の選任を申し立て、空き家の売却による滞納税の回収に動くことがあります。
放置された空き家が市区町村から「管理不全空家等」に指定され、指導に従わず「勧告」を受けると、固定資産税の住宅用地特例の対象から外れます(地方税法349条の3の2第1項)。
これにより土地部分の課税標準の特例(1/6など)が解除されるため、固定資産税の課税標準が最大6倍になります(固定資産税そのものが必ず6倍になるという意味ではありません)。税負担が清算費用の大きな足かせとなるため注意が必要です。※特例解除の詳しい計算式や要件は以下の記事をご覧ください。
☆あわせて読みたい
内縁の配偶者などが特別縁故者として財産分与を受けた場合、被相続人からの遺贈とみなされ相続税の課税対象になります(相続税法4条)。また、一親等の血族・配偶者ではないため、税額が2割加算されます(相続税法18条)。申告期限は「審判の確定を知った日の翌日から10か月以内」です。空き家は換金しにくいため、納税資金を別途用意できるか確認しておく必要があります。
空き家は換金しにくい財産です。相続税の納税資金を別途用意できるかどうかも、分与を申し立てる前に確認しておく必要があります。
不動産相続相談 年間100件の実績初回無料相談 / LINE / 03-5357-1539≫ お問い合わせはこちら
相続放棄をすれば個人の納税義務はなくなります。清算人の選任後は、相続財産の中から支払われます。選任前に通知が届いた場合は、自治体に受理証明書を提出してください。
空き家を売却するなどして、清算人の報酬等の費用を相続財産から賄えれば返還されます。売れない場合は戻らないケースも多いです。
法定相続人ではないため当然には相続できませんが、「特別縁故者」として財産分与を請求できる可能性があります。この場合、相続税(2割加算)の課税対象になります。
「自己のために相続の開始があったことを知った時」から3か月以内です。間に合わない場合は熟慮期間の伸長を申し立てられます。
☆あわせて読みたい
保存義務の有無は占有の実態で判断が分かれるため、自己判断は危険です。清算人の申立書類は司法書士や弁護士、固定資産税の通知対応や特別縁故者の相続税は税理士が担当します。税理士に依頼すると、税務面の見通しをまとめて整理できます。まずは状況をお聞かせください。
相続人がいない空き家は、いずれ国庫に帰属します。しかしそれまでの清算手続の間は、誰かが責任を負わなければなりません。「相続放棄すれば終わり」「放っておけば国が何とかしてくれる」という考えは危険です。
空き家には、固定資産税の通知への対応、管理不全空家に指定された場合の税負担、特別縁故者の相続税など、税務上の判断が付きまといます。取り返しがつかなくなる前に、専門家へご相談ください。
※本記事は一般的な解説です。個別の税務・法律判断は専門家にご相談ください。
不動産相続に強い渡邉優税理士事務所の
相続関連サービス
生前対策から国内外の相続税申告、
不動産の売却及びその確定申告など不動産相続に関連するあらゆる
サービスを提供しています。