空き家の放置は、2023年の空家法改正で「管理不全空家」への指導・勧告の対象となり、勧告を受けると固定資産税の住宅用地特例が外れて課税標準が最大6倍になる場合があります。一方、売却なら3,000万円特別控除が使える可能性があります。
「親が亡くなり、実家が空き家になった。遠方で住む予定もなく、とりあえずそのままにしている」。税理士として相続のご相談を受けていると、こうした声は非常に多く、同時に「放置したらどうなるのか」「売るのか、手放すのか、何から決めればいいのか」という悩みに行き着きます。
結論から言うと、空き家は「とりあえず放置」が最も損をしやすい財産です。維持費や固定資産税が毎年かかり続けるうえ、管理が行き届かなければ行政から指導や勧告を受け、税負担が一気に重くなるおそれもあります。一方、売却には使える特例があり、手放し方にも状況に応じた選択肢が用意されています。
本記事は、相続直後にやること、放置のリスク、4つの選択肢の比較、売却時の税金と特例、そして手放したい場合の方法を、順を追って解説します。
※本記事は一般的な解説です。個別の税務・法律判断は専門家にご相談ください。
空き家の相続で最初にやるべきことは、「誰が相続人で、家は誰の名義で、いつまでに何を決める必要があるか」を把握することです。ここを曖昧にしたまま管理や売却の話を進めると、後々トラブルに発展してしまいます。
まず、遺言書の有無を確認します。自筆の遺言書が見つかった場合は、原則として家庭裁判所での検認(民法1004条1項)が必要です。ただし、公正証書遺言や、法務局の自筆証書遺言書保管制度を利用していた遺言書は検認が不要です。
遺言書がなければ、法定相続人全員で遺産分割協議を行います。誰が相続人かは、被相続人の出生から死亡までの戸籍をたどって確定させます。戸籍の収集は想像以上に手間がかかるため、早めに着手しましょう。
また、被相続人が他にも不動産を持っていないかも確認します。市区町村で名寄帳を取得する、固定資産税の納税通知書を確認するなどの方法があります。
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2024年(令和6年)4月1日から、相続登記は義務になりました。不動産を相続で取得したことを知った日から3年以内に申請する必要があり、正当な理由なく怠ると10万円以下の過料の対象となります。
見落としやすいのが過去の相続です。2024年4月1日より前に発生した相続でも、まだ登記をしていなければ対象で、原則として2027年(令和9年)3月31日までに登記を済ませる必要があります。
遺産分割がまとまらず3年以内に確定できないときは、相続人申告登記で過料を回避できます。ただし、これはあくまで「相続人であること」を法務局に申し出る暫定的な手続きです。所有権の移転登記ではないため、これだけでは売却や担保設定などの手続きは進められません。遺産分割が成立したら、改めて正式な相続登記が必要です。
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空き家の相続には、混同しやすい複数の期限が並行して進みます。特に、相続登記の「3年」と、後述する空き家の3,000万円特別控除の「3年」は、期限の起算点も終期も別物です。時系列で整理しておきましょう。
| 時期 | 手続き・判断 | 根拠 |
|---|---|---|
| 相続開始(自己のために相続の開始があったことを知った時)から3か月以内 | 相続放棄・限定承認の判断 | 民法915条1項 |
| 相続開始から10か月以内 | 相続税の申告・納付(必要な場合) | 相続税法27条 |
| 相続を知った日から3年以内 | 相続登記の申請(義務) | 改正不動産登記法 |
| 相続開始から3年を経過する日の属する年の12月31日まで | 空き家の3,000万円特別控除を使った売却 | 租税特別措置法35条3項 |
| 相続税の申告期限の翌日から3年以内 | 相続税の取得費加算の特例を使った売却 | 租税特別措置法39条 |
「相続放棄は3か月以内」と「売却の特例は3年目の年末まで」を混同し、判断が遅れて選択肢を失うケースは少なくありません。空き家を売るのか、手放すのか、持ち続けるのか。まず、この期限のどれに間に合うかを確認しましょう。
放置すると、これらの期限だけでなく、次章で解説するようなリスクが生じます。
2023年12月に施行された改正空家法で、「特定空家」の手前の段階である「管理不全空家」が新設されました。窓や壁の破損、雑草の繁茂など、放置すれば特定空家になるおそれのある空き家が対象です。
行政の対応は次のような順番で進みます。
「管理不全空家に指定されたら即6倍」ではなく、「勧告」を受けて初めて特例が外れるという流れです。
なお、住宅が建っている土地には、固定資産税の住宅用地特例が適用され、課税標準が軽減されています。
| 区分 | 固定資産税の課税標準 | 都市計画税の課税標準 |
|---|---|---|
| 小規模住宅用地(200㎡以下の部分) | 6分の1 | 3分の1 |
| 一般住宅用地(200㎡超の部分) | 3分の1 | 3分の2 |
勧告を受けるとこの特例の対象から外れるため、固定資産税の課税標準が最大6倍になる場合があります(税額そのものが必ず6倍になるという意味ではありません)。さらに、悪化して「特定空家」と判断され、命令に従わなければ50万円以下の過料が科されることがあります。
台風で屋根瓦が飛んで隣家の車を傷つけた、老朽化したブロック塀が倒れて通行人にけがをさせた。こうした事故が起きたときは、民法717条(土地工作物責任)が問題になります。
717条1項は、土地の工作物(建物や塀など)の設置・保存に瑕疵があって他人に損害を与えた場合、まず占有者が責任を負うとしています。ただし、占有者が損害の発生を防ぐのに必要な注意をしていたときは、所有者が責任を負います。所有者の責任は、過失がなくても生じ得る点が特徴です。
つまり、「空き家に住んでいないから関係ない」とは言えません。管理していない空き家の所有者は、所有者として責任を問われるおそれがあります。なお、占有者と所有者では責任の構造が異なるため、個別の事情によって結論は変わります。
空き家は、人が住まなくなると急速に傷みます。換気や通水をしない家は、カビや雨漏り、シロアリの被害が進みやすく、売却や活用の選択肢も狭まります。
さらに、維持費は何もしなくても毎年かかります。目安は次のとおりです。
| 項目 | 年間の目安 |
|---|---|
| 固定資産税・都市計画税(特例適用時) | 数万円〜20万円程度 |
| 火災保険料・地震保険料 | 2万円〜6万円程度 |
| 草刈り・清掃・庭木の手入れ | 5万円〜15万円程度(1回2万〜5万円、年2〜3回) |
| 巡回管理サービス | 6万円〜12万円程度(月5,000円〜1万円) |
| 電気・水道の基本料金 | 2万円〜4万円程度 |
| 合計の目安 | 年間15万〜50万円以上 |
遠方にある実家なら、交通費も加わります。10年放置すれば、数百万円を維持にかけてもなお資産価値は下がり続けます。
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では、こうしたリスクを避けるため、空き家にはどんな選択肢があるのでしょうか。
空き家の対処法は、大きく4つに分かれます。ただし、使える時期や条件がそれぞれ異なることに注意が必要です。
自分や家族が住む場合や、賃貸需要が見込める立地なら、維持・活用も有力な選択肢です。
ただし、貸す場合は注意点があります。
売却には、空き家の3,000万円特別控除など、使える特例があります。売却益に対する税金を大きく減らせる可能性があり、維持費や放置リスクからも解放されます。
ただし、物件によっては売却が難しい場合もあります。売却費用が高い、解体費がかかる、ほとんど値段がつかない、接道していない・再建築不可、境界の問題がある、買い手が見つからない地方の物件、などです。「売れる物件かどうか」の見極めが前提になります。
相続土地国庫帰属制度は、相続した不要な土地を国に引き取ってもらう制度です。空き家そのものを国が引き取る制度ではなく、建物が建っている土地は原則として申請できません。つまり、「空き家が建っている土地について、建物を解体して制度の利用を検討する」という位置づけになります。
相続放棄は、そもそも相続しないという選択です。ただし、相続を知った時から原則3か月以内に家庭裁判所に申述する必要があります。また、空き家だけを放棄することはできません。預貯金などプラスの財産も含めて、全部を放棄することになります。
| 選択肢 | 向いているケース | 期限・時期 | 主な注意点 |
|---|---|---|---|
| ①活用(住む・貸す) | 自分や家族が使う、賃貸需要がある | なし | 貸すと3,000万円控除が使えなくなる可能性がある |
| ②売却 | 売却できる価値がある | 特例は相続から3年目の12月31日まで | 物件によっては売りにくい |
| ③国庫帰属 | 土地は手放したいが売却が難しい | 申請に期限はない(要件を満たすこと) | 建物がある土地は申請不可、費用負担あり |
| ④相続放棄 | そもそも相続を受けない | 相続開始を知ってから原則3か月以内 | 全部の財産を放棄、保存義務が残る場合も |
相続した空き家を売却したときは、一定の要件を満たせば、譲渡所得から最高3,000万円を控除できます(租税特別措置法35条3項)。2024年(令和6年)1月1日以降の譲渡では、要件が見直されました。
① 買主による解体・耐震改修でも対象に(2024年1月1日以降)
従来は、売主(相続人)が売却前に耐震改修を済ませるか、建物を解体して更地にしてから売却する必要がありました。2024年以降は、現況のまま売却し、売却した年の翌年2月15日までに買主が耐震改修工事または解体工事を行えば、売主も特例を使えます。ただし、買主が期限内に工事を終えなければ売主が特例を受けるための要件を満たせなくなるため、売買契約書に「買主が期日内に工事を行う義務」や「履行されない場合の損害賠償」を定める特約が重要です。
② 相続人が3人以上の場合は控除上限が2,000万円に
その空き家を相続した人が1〜2人の場合は1人あたり最高3,000万円、3人以上の場合は特別控除額の上限が2,000万円です。判定は、遺産全体の相続人数ではなく、その空き家・敷地を取得した相続人の数で行います。
主な適用要件(概要)
控除を受けるには、市区町村から「被相続人居住用家屋等確認書」を取得し、売却した翌年の確定申告に添付します。控除によって税額が0円になる場合でも、確定申告は必須です。
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売却を検討するなら、早めの判断が有利です。理由は大きく3つあります。
相続登記の「3年以内」と、売却特例の「3年を経過する日の属する年の12月31日まで」は別の期限です。混同しないよう注意してください。では、売却が難しい、あるいはそもそも相続したくない場合は、どうすればよいのでしょうか。
「手放す」方法は、今がどの段階かによって使えるものが変わります。
| 状況 | 使える選択肢 |
|---|---|
| 相続開始を知ってから原則3か月以内 | 相続放棄 |
| すでに相続した土地(建物がない、または解体した) | 相続土地国庫帰属制度 |
| 相続した空き家(建物) | 売却(上記ルートA) |
| 売却できない・相続人がいない | 自治体への相談、清算手続など |
相続放棄は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に、家庭裁判所に申述して行います(民法915条1項)。相続放棄をすると、初めから相続人でなかったことになります。
ただし、次の点に注意してください。
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「相続放棄をすれば、空き家の責任からも逃れられる」と思われがちですが、実際は異なります。改正民法940条1項(2023年4月施行)は、相続放棄をした人が、放棄の時に相続財産を「現に占有」しているときは、相続人または相続財産清算人に引き渡すまでの間、自己の財産と同じ注意をもって保存しなければならないと定めています。
たとえば、被相続人と同居していた人や、別居でも鍵を持って定期的に管理していた人は、「現に占有」と判断される可能性があります。一方、長年別居していて管理の実態がない場合は、通常あたりません。判断が分かれやすいため、自己判断は避け、専門家に相談してください。
また、相続人全員が放棄して、引き渡す先の相続人がいない場合は、相続財産清算人の選任を家庭裁判所に申し立てて、その人に引き渡す必要があります。
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すでに相続(または相続人への遺贈)で土地を取得してしまい、売却も難しい場合に検討できるのが、相続土地国庫帰属制度(2023年4月27日施行)です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 申請できる人 | 相続または遺贈で土地を取得した相続人 |
| 審査手数料 | 土地1筆あたり14,000円 |
| 負担金 | 承認後、10年分の管理費相当額として原則20万円から(土地の種類・面積等により異なる) |
| 却下される主な土地 | 建物がある土地(相続土地国庫帰属法2条3項1号)、担保権が設定された土地、境界が不明確な土地、土壌汚染のある土地など |
大切なのは、この制度は「空き家を手放す」制度ではなく、空き家が建っていた土地について検討する制度だという点です。建物がある土地は原則として申請できないため、制度を利用するには、所有者が自費で建物を解体する必要があります。
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遺産全体の評価額が基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数)以下なら、相続税はかかりません。空き家だけで判断せず、預貯金などを含めた遺産全体で確認してください。小規模宅地等の特例が使える場合もあります。
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相続登記が義務化されており、正当な理由なく怠ると10万円以下の過料の対象となります。また、売却などの処分を進める際にも相続登記が必要になります。
入っておくことをおすすめします。空き家は放火や台風被害、老朽化による事故のリスクがあります。ただし、無人の空き家は一般住宅より保険料が高めになる場合や、加入できる保険が限られる場合があるため、保険会社に空き家であることを伝えたうえで確認してください。
要件を満たせば使えます。入所前に被相続人が一人で住んでいたこと、入所後に家を貸したり他人が住んだりしていないこと、家財道具などが残されていて、介護や療養の理由で施設に入所していたことなどが条件です。
売れるかどうかの見極めは不動産会社、登記は司法書士、相続放棄や清算は弁護士・司法書士が担当します。税理士に依頼すると、売却した場合の税金(3,000万円控除が使えるか、手残りはいくらか)や、相続税の有無をまとめて整理できます。期限のある判断が多いため、お早めに状況をお聞かせください。
空き家は、「とりあえず放置」が最もリスクの大きい選択です。
相続後の早い段階で、登記や売却などの方針を決めることが重要です。迷ったときは、取り返しがつかなくなる前に専門家へご相談ください。
※本記事は一般的な解説です。個別の税務・法律判断は専門家にご相談ください。
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