実家を相続したら、まず「相続放棄は3か月」「相続税申告は10か月」「相続登記は3年」という3つの期限を押さえることが最優先です。相続税は基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数)以下なら不要ですが、小規模宅地等の特例を使う場合は税額0円でも申告が必要です。親が亡くなり実家の扱いに悩む方、兄弟で分け方を決めたい方に向けて、実家の相続について解説します。
※本記事は一般的な解説です。個別の判断は税理士等の専門家にご確認ください。
実家の相続手続きは、期限が決まっているものから優先して進めます。
※遺言書の有無で手順が変わります。自筆証書遺言が見つかった場合は、家庭裁判所の検認が必要です(ただし、法務局の自筆証書遺言保管制度を利用していれば検認は不要です)。
| 期限 | 手続き | 根拠法 | 提出先 |
|---|---|---|---|
| 7日以内 | 死亡届 | 戸籍法86条 | 市区町村役場 |
| 3か月以内 | 相続放棄・限定承認 | 民法915条1項 | 家庭裁判所 |
| 4か月以内 | 準確定申告 | 所得税法124条 | 税務署 |
| 10か月以内 | 相続税の申告・納付 | 相続税法27条 | 税務署 |
| 3年以内 | 相続登記(名義変更) | 不動産登記法76条の2 | 法務局 |
まずは遺言書の有無を確認し、亡くなった方の出生から死亡までの戸籍謄本を収集して法定相続人を確定させます。同時に、実家の固定資産税納税通知書や登記事項証明書(登記簿謄本)を取得し、財産の全体像を把握しましょう。
なお、2026年2月2日施行の「所有不動産記録証明制度」を利用すると、親名義の不動産を一覧で確認できるようになります。
不動産登記法164条1項により、相続によって不動産を取得したことを知った日から3年以内に相続登記(名義変更)を行うことが義務化されました。正当な理由なく申請を怠ると、10万円以下の過料の対象となります。
☆あわせて読みたい
「実家しかないから相続税は関係ない」というのは大きな思い込みです。まずは基礎控除の計算式で判定しましょう。
相続税には、一定額まで税金がかからない「基礎控除」があります(相続税法15条)。
相続税の対象になるのは、「実家の評価額+預貯金+生命保険(※)+その他」の合計額が基礎控除を超える場合です。
※生命保険は「500万円×法定相続人の数」までは非課税枠として差し引かれます(相続税法12条1項5号)。
実家の評価額は、実際に売買される「時価」ではなく、税務上の評価額で計算します。
都市部では土地の評価額が高くなりやすいため、「実家(土地4,000万円)+預貯金1,000万円」でも、相続人が2人(基礎控除4,200万円)の場合は基礎控除を超えてしまい、相続税がかかるケースがあります。
☆あわせて読みたい
「小規模宅地等の特例(租税特別措置法69条の4)」は、亡くなった人が住んでいた土地について、330㎡まで評価額を80%減額できる特例です。「誰が相続するか」によって適用要件が大きく変わります。
| 実家を相続する人 | 主な適用要件 |
|---|---|
| 配偶者(母・父) | 要件なし(無条件で適用可能) |
| 同居していた子 | 申告期限まで居住・保有し続けること |
| 別居の子(家なき子) | 持ち家がないなど、厳しい要件を満たすこと |
配偶者は居住・保有の継続要件はありませんが、特例の対象となる宅地等を取得することや、期限内の申告手続き等の他の適用要件を満たす必要があります。
ただし、配偶者がすべての財産を相続すると、次に母が亡くなった時の「二次相続」で特例が使えず、トータルの税負担が重くなるケースがあるため、「母名義にするか子名義にするか」は二次相続を見据えて慎重に判断する必要があります。
親と同居していた子が相続する場合、相続開始直前から申告期限(10か月)まで引き続き実家に住み、かつ保有していることが要件です。申告期限前に売却すると特例は使えません。また、「住民票を移しただけ」では認められず、生活の本拠としての実態で判定されます。
同居していない子でも、「過去3年以内に持ち家に住んでいない」「申告期限まで実家を保有する」などの厳しい要件を満たすといわゆる「家なき子特例(措置法69条の4第3項2号ロ)」が使えます。
親が老人ホームに入所して実家が空き家になっていた場合でも、要介護・要支援認定等を受けていること、老人福祉法等に基づく施設であること、入所後に実家を事業用・第三者への貸付に使っていないこと等の要件を満たせば特例を利用できます(措置法施行令40条の2第2項)。
☆あわせて読みたい
小規模宅地等の特例を使うと、どのくらい税金が変わるのでしょうか。
【前提条件】
【特例なしの場合の相続税】
課税価格合計7,500万円 − 基礎控除4,200万円 = 課税遺産総額3,300万円。
これを法定相続分で按分して計算すると、相続税の総額は395万円になります。
【特例ありの場合(同居の長男が適用)】
土地の評価額5,000万円が80%減額されて1,000万円になります。課税価格合計は3,500万円となり、基礎控除4,200万円を下回るため、相続税は0円になります(特例なしの場合と比べて395万円の手残り差額が生じます)。ただし、税金が0円になっても申告書の提出は必須です。
💡 小規模宅地等の特例が使えるか、いくら節税できるか知りたい方へ
\ 相続・税務のプロが回答します /
受付時間 10:00~18:00(月〜金)
分けにくい不動産である実家を兄弟で分けるには、主に4つの方法があります。
| 分割方法 | 内容 | メリット | デメリット | 向いているケース |
|---|---|---|---|---|
| 現物分割 | 1人が実家をそのまま取得する | 手続きが簡単 | 不公平になりやすい | 実家以外の預金が十分にある場合 |
| 代償分割 | 実家を取得した人が他の兄弟に代償金を払う | 公平に分けられる | 代償金の原資(現金)が必要 | 1人が実家に住み続けたい場合 |
| 換価分割 | 実家を売却して現金で分ける | 公平かつ現金化できる | 手間がかかり譲渡所得税がかかる | 誰も実家に住まない場合 |
| 共有 | 兄弟の共有名義にする | 平等に見える | (後述)将来のトラブルの元 | 原則として避けるべき |
注意:代償分割と贈与税のリスク
代償分割を行う際、遺産分割協議書に「代償分割である旨(実家をもらう代わりに現金を渡すこと)」を明確に記載しないと、単なる兄弟間の金銭のやり取りとみなされ、受け取った側に贈与税が課税されるリスクがあるため注意が必要です。
親と同居していた兄弟がそのまま住み続ける場合、他の兄弟から「家賃を払ってほしい」と言われることがあります。しかし、最高裁平成8年12月17日判決では、被相続人と同居していた相続人には、遺産分割が終わるまで無償で住み続ける合意(使用貸借)が推認され、他の相続人は原則として家賃相当額を請求できないと判断されています(最高裁平成8年12月17日判決)。
住んでいる兄弟が実家を取得する場合は「代償分割」が基本ですが、代償金が払えない場合は分割払いや生命保険の活用を検討します。
※母が住み続ける場合は、「配偶者居住権(民法1028条)」という権利を設定することも可能です。
話し合いがまとまらない場合は、家庭裁判所の遺産分割調停を利用します。注意点として、申告期限(10か月)までに分割が決まらないと、小規模宅地等の特例が一旦使えなくなります。「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付して申告し、分割成立日の翌日から4か月以内に更正の請求をすることで特例を受けられます。
また、2023年4月1日施行の改正民法904条の3により、相続開始から10年経過後は特別受益や寄与分を主張できず、画一的に法定相続分で分割されることになりました(施行前の相続についても、少なくとも2028年3月31日までは主張可能です)。
☆あわせて読みたい
実家を売却して利益が出ると、譲渡所得税がかかります。
譲渡所得 = 売却価格 − (取得費+譲渡費用)
取得費や所有期間は親のものを引き継ぎます(所得税法60条)。親の購入額が不明な場合は売却価格の5%(概算取得費)しか控除できず、税金が高額になりやすい点に注意が必要です。所有期間が5年超(譲渡した年の1月1日時点)であれば「長期譲渡所得」となり、税率は20.315%です。
一定要件を満たす空き家を売却した場合、譲渡所得から最高3,000万円を控除できる特例(措置法35条3項)があります。
「昭和56年5月31日以前に建築された一戸建てであること」「相続開始から3年を経過する日の属する年の12月31日(かつ2027年12月31日)までの売却であること」など、複数の要件を満たす必要があります。
相続税を支払った人は、「取得費加算の特例(措置法39条)」を使えます。これは、相続税の申告期限の翌日から3年以内に売却した場合、支払った相続税の一部を取得費に加算できるものです。
「空き家特例」と「取得費加算の特例」は併用できず、有利な方を選択する必要があります。多額の相続税を払った場合は取得費加算の方が有利になることもあるため、試算して比較しましょう。
親と同居していた子が小規模宅地等の特例を使う場合、相続税の申告期限(10か月)の前に実家を売ってしまうと、居住・保有要件を満たせず特例を失います。売却のタイミングは、「相続税の特例の要件(10か月保有)」と「売却時の特例の期限(3年)」の両方から逆算して売却スケジュールを決める必要があります。
☆あわせて読みたい
実家が老朽化していたり借金があったりして相続したくない場合、「相続放棄」が可能です。ただし、実家だけを放棄することはできず、預貯金を含むすべての財産を手放すことになります(民法939条)。
相続放棄は、「自己のために相続の開始があったことを知った時(通常は親の死亡日)から3か月以内」に家庭裁判所に申述しなければなりません(民法915条1項、938条)。
注意点として、実家の家財を売却・処分したり解体すると単純承認とみなされ、相続放棄ができなくなります(民法921条)。
全員が相続放棄しても、実家の管理責任から完全に解放されるわけではありません。
2023年4月1日施行の改正民法940条1項により、相続放棄の時点で実家などの相続財産を現に占有している人は、次の相続人または相続財産清算人に引き渡すまで、その財産を保存する義務を負います(改正民法940条1項)。単に相続人であることや、観念的に占有を引き継いだことだけで、この義務が生じるわけではありません。遠方に住んでいて関与していない人は原則として負いません。
放棄以外の選択肢として、要件を満たせば国に土地を引き取ってもらう「相続土地国庫帰属制度(2023年4月施行、審査手数料1万4千円・負担金原則20万円)」もありますが、建物がある土地は対象外のため建物を解体して更地にする必要があります。
☆あわせて読みたい
小規模宅地等の特例を適用して税額を0円にする場合でも、期限内の相続税申告が必要です。申告しないと特例が適用されず、多額の相続税や無申告加算税・延滞税が発生します。遺産分割が未了の場合は「3年以内の分割見込書」を添付して申告しましょう。
売却や解体などの変更行為に共有者全員の同意が必要になります(民法251条1項)。共有者の死亡で持分がさらに細分化し、不動産が完全に塩漬け化します。必ず代償分割などで単独名義にすべきです。
特例が使えないだけでなく、登記の3年期限に遅れたり、10年経過で特別受益等の主張ができなくなります。早めに調停等を利用して解決を図りましょう。
「特定空家」等の勧告を受けると住宅用地特例が外れ、固定資産税が最大約6倍に跳ね上がります。定期的な管理か、早めの売却・解体が必要です。
小規模宅地等の特例の同居要件は、郵便物や公共料金などの「生活の本拠」の実態で判断されます。税務調査で否認されると重加算税を含む多額の追徴課税となりますので絶対におやめください。
☆あわせて読みたい
実家の相続は論点によって専門家が異なります。
| 相談内容 | 専門家 |
|---|---|
| 相続税の計算・特例の判定・売却時の税金 | 税理士 |
| 相続登記(名義変更)・遺言書の検認 | 司法書士 |
| 兄弟間の揉め事・遺産分割調停 | 弁護士 |
| 実家の査定・売却活動 | 不動産会社 |
実家の相続は「税金の特例」「登記」「売却」が密接に連動します。そのため、まずは不動産と相続に強い税理士を起点に相談し、特例の期限を逃さずに全体を最適化することをおすすめします。
不動産相続相談 年間100件の実績初回無料相談 / LINE / 03-5357-1539≫ お問い合わせはこちら
A. まずは遺言書の確認と、戸籍収集による法定相続人の確定を行います。3か月の相続放棄の期限があるため、実家や預貯金、借金などの財産全体を把握することが最優先です。
A. 基礎控除と財産の評価額で判定するため、都市部の場合は実家だけでも基礎控除を超えることがあります。小規模宅地等の特例を使えば税額が0円になる場合もありますが、その場合でも申告手続きは必須です。
A. 配偶者(母)は無条件で小規模宅地等の特例を使えるため一次相続では有利になりやすいですが、母が亡くなった時(二次相続)には特例が使えずトータルの税負担が重くなることがあります。将来を見据えたシミュレーションが必要です。
A. 2024年4月から相続登記が義務化され、3年以内に申請しないと10万円以下の過料の対象になります。また、名義変更しないままでは実家の売却や担保設定もできません。
A. 最高裁の判例(平成8年12月17日)により、被相続人と同居していた相続人は、遺産分割が完了するまで原則として無償で住み続けることが認められており、他の兄弟が家賃相当額を請求することは原則できません。
A. 小規模宅地等の特例の適用判定、不動産の適正な評価、相続税申告、売却時の特例の有利不利の比較まで一貫して対応します。費用は遺産総額などにより変動するため、まずは無料相談をご利用ください。
実家の相続は、手続き、税金、分け方、売却が密接に連動しており、最初の判断がその後の選択肢や手取り額を大きく左右します。後悔しない実家相続のために、まずは以下の5点を確認しましょう。
実家の相続は「税金の特例」「登記」「兄弟間の遺産分割」が密接に絡み合います。少しでも不安がある方や、どの特例を利用できるか分からない方は、早めに相続に強い税理士に相談し、ご自身の家族の状況に合った最適な相続計画を立てましょう。
※本記事は一般的な解説です。個別の税務判断は税理士にご相談ください
不動産相続に強い渡邉優税理士事務所の
相続関連サービス
生前対策から国内外の相続税申告、
不動産の売却及びその確定申告など不動産相続に関連するあらゆる
サービスを提供しています。