相続税対策の1つの方法として「生前贈与」を検討している方も多くいらっしゃると思います。生前贈与は、財産を無償で与える「贈与者」と受け取る「受贈者」の双方の合意により成立する契約です。
「あげましょう」「もらいましょう」という意思表示を行えば、贈与契約書がなくても贈与は成立します。しかし、口約束だけでは後々トラブルに発展してしまうこともあるため、贈与契約書の作成が一般的です。
ここでは、贈与契約書の作成手順、作成するメリット・デメリットについて詳しく解説します。生前贈与を検討されている方はぜひ最後までお付き合いください。
なお、当事務所では相続税申告や贈与税申告についてのご相談を初回相談無料にて承っております。お悩みの際は、ぜひ一度ご相談ください。
贈与契約書を解説する前に、贈与と贈与税の関係についておさえておきましょう。
贈与とは民法上の契約です。財産を相手に無償で移転する意思を表示し、相手方も受託する意思を表示することで成立します。贈与契約を成立すると、受贈者が受け取った財産の金額に応じた贈与税が発生します。
贈与税は相続税を補完する税金であり、生前贈与を行うことで相続税が減少することを防ぐ役割があります。もし、贈与税がなければ、全ての財産を生前贈与してしまえば相続税が発生しません。相続税の公平性を保つためにも、生前贈与には贈与税が課税されます。
現在、贈与税の課税方法には2つの制度があります。
暦年課税とは、毎年1月1日~12月31日までの1年間に贈与された財産の額に課税される方法です。年間110万円の非課税枠があるため、110万円以内であれば贈与税が課税されません。
相続時精算課税制度とは、2,500万円まで非課税で生前贈与ができる制度です。非課税になった財産は相続時に財産に加算して相続税の計算を行います。令和5年度税制改正により年間110万円の非課税枠が創設されています。
暦年課税と相続時精算課税については「【新しい相続時精算課税制度】制度を活用した方がいいケースはどんな時?」で詳しく解説しています。
土地や建物などの不動産の生前贈与を行うと、贈与税の負担以外にも登録免許税や不動産取得税が発生します。贈与による登録免許税と不動産取得税の税率は相続による移転よりも高い税率が設定されていますので、不動産の生前贈与を行う際はこれらの税負担も考慮する必要があります。
贈与契約書を作成するには、次の手順で行います。
贈与契約は贈与する人と受け取る人の双方の意思が合致することで成立する契約です。どのような財産をどれくらい贈与するのかを確認し、双方の意思が合致しているのかを確認しましょう。
また、贈与する財産や受贈者との関係によっては「贈与税の特例」を利用できるケースがあります。特例を利用する場合は、要件を満たしているのか入念にチェックしましょう。
「いつ贈与を行うか」について確認しましょう。贈与契約書の日付が贈与成立日になり、「財産が移転した日」となります。「いつ贈与が成立したのか」はトラブルや税務調査などで焦点になりやすい項目になりますので、しっかりと確認しましょう。
確認した贈与の内容や日付をもとに贈与契約書を作成します。贈与契約書には決まった書式はありませんが、トラブル防止のため次の項目を含めて作成しましょう。
・贈与者の住所・氏名
・受贈者の住所・氏名
・贈与財産の種類・金額
・贈与の方法
・贈与契約締結日
上記の項目の記載があれば、シンプルな贈与契約書でも問題ありません。贈与契約書は双方が保管するため2通作成しましょう。
【贈与契約書のひな形】
<現金を贈与する場合>
<ダウンロード:Word形式>
<不動産を贈与する場合>
※不動産の贈与契約書には、原則200円の収入印紙を貼る必要があります。
<ダウンロード:Word形式>
作成した贈与契約書に贈与者と受贈者が署名・押印を行います。押印はシャチハタ以外の印鑑を使用します。できれば、実印を利用し、印鑑証明を添付しておくと贈与契約書の信ぴょう性が高まります。
双方が贈与契約書を1通ずつ保管します。贈与があったことを示す大切な書類ですのでなくさないように保管しましょう。不動産の贈与の場合は、不動産登記に贈与契約書が必要になります。
贈与契約書を作成する際には次の点に注意しながら作成しましょう。
贈与契約は双方が意思表示を行うことで成立する契約です。もし、どちらかが意思表示をできない状況、意思能力がない場合には贈与契約は成立しません。
例えば、認知症を発症している人の場合、一定の法律行為が制限されてしまいます。贈与も制限されている法律行為にあたるため、原則的に贈与を行うことはできません。
ただし、認知症の症状には個人差がありますので、認知症だから贈与はできないというわけではなく、症状などで個別に判断を行うケースもあります。
贈与した財産は受贈者の管理下でなければなりません。例えば、親が子に現金を贈与し、子の預金口座に振り込んだ場合、その預金は子が自由に利用できる状況でなければなりません。
親が通帳やキャッシュカードを管理しており、子が自由に利用できない場合は「名義預金」として贈与者の相続財産の対象になってしまいます。「受贈者が贈与された預金の存在を知らない」「受贈者が贈与された預金口座の管理下にない」という状況にならないようにしましょう。
現金を贈与する場合は手渡しではなく、銀行振込で行った方がいいでしょう。手渡しでも法的に問題はありませんが、証拠が残らないため、税務調査などの際に疑われてしまうおそれがあります。
銀行振込であれば、現金の受け渡しが通帳に記録されるため、「本当に贈与が行われたのか」を疑われる余地がありません。
未成年者でも贈与契約を行うことができます。ただし、未成年者の場合は「親権者の受諾」が必要になります。未成年者が受贈者になる場合は、贈与契約書の署名欄に親権者の欄を設け、親権者の住所、氏名、押印を行いましょう。
贈与契約は書面に残さずに口頭でも可能ですが、トラブルが発生した場合には言った言ってないの水掛け論になってしまうおそれがあります。贈与契約書で贈与内容をお互いが確認しておけばトラブルになるリスクを回避することができます。
また、税務調査が行われた際には「贈与を行った証拠」として主張することができます。
口約束で贈与の約束をしていても、贈与者が約束通り贈与を行ってくれるのか分かりません。贈与契約書を作成しておくことで、贈与を履行してもらえる可能性があがり、受贈者の利益が守られます。
不動産を贈与した場合、所有権移転登記を行う際に贈与契約書が必要になります。登記原因証明情報の原因になる書類として管轄の登記所へ提出が必要になりますので、必ず作成しなければなりません。
贈与契約書は贈与する度に作成する必要があります。作成に大きな手間がかかるものではありませんが、贈与の回数が多かったりすると多少の手間がかかってしまうでしょう。
贈与契約書は良くも悪くも記録に残ります。例えば、贈与契約書では100万円贈与すると記載されていても、実際には50万円しか贈与されていなかった場合、贈与契約書を作成し直す必要があります。
贈与契約書を作成し直さなければ、契約書上は100万円の贈与となってしまいます。現金の受け渡しの事実が証明できなければ、贈与契約書が正しいということになってしまうおそれがあります。
贈与契約書は、贈与の内容を明文化し、贈与の証拠になる書類です。「家族や親せきの間で契約書を交わす必要ない」と感じられる方もいらっしゃると思いますが、贈与契約書を作成することで今後発生する様々なトラブルを回避することができます。
「贈与契約書の作成に不安がある」という場合は、ぜひ当事務所へご相談ください。提携の司法書士事務所と連携し、皆様の生前対策をサポートいたします。また、生前贈与以外の生前対策についてもサポートしておりますので、生前対策でお困りの際はお気軽にお問い合わせください。
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この記事の執筆者:渡邉 優
「渡邉優税理士事務所」代表。相続の中でも“不動産にお困りごとを抱える相続”の対応を得意としている。