グローバル化している現在では「相続人の1人が海外に住んでいる」というケースも珍しくありません。相続人が海外在住の場合、通常の相続税申告手続きとは異なる手続きや書類が必要になります。
手続き方法をしっかり理解して進めていかなければ「申告期限に間に合わなくなってしまう」ということになりかねません。
ここでは「海外在住の相続人の相続手続き」について詳しく解説します。海外に住んでいる方や親族が海外在住の方は、ぜひ最後までお付き合いください。
目次
相続が発生した時に、ご自身が海外にいる場合、日本に住む他の相続人に戸籍謄本の取得や財産の調査などを代理でしてもらうことで、一時帰国をせずにそれらの手続きを行うことができます。
ただし、遺産分割協議の参加方法や必要になる書類が通常と異なりますので注意しましょう。
一般的な相続では、相続人全員が集まり、対面で遺産をどのように分割するのかを決める「遺産分割協議」を行います。しかし、相続人に海外在住者がいる場合、対面で集まるためには一時帰国を待たなければならず、手続きが滞ってしまいます。
遺産分割協議をスムーズに行うためには「Web会議システム」の利用をおすすめします。遺産分割協議は、対面でなければならないと決められているものではありませんので、メールでやり取りすることも可能ですが、やはり顔を見ながら話をしたほうが誤解を生みにくく、トラブルを回避することができるため、Web会議システムを利用したほうがいいでしょう。
海外在住者の場合、日本の住民票を抜いているため、印鑑証明と住民票を用意することができません。そのため、印鑑証明と住民票の代わりになる「署名証明」と「在留証明」を準備する必要があります。
戸籍謄本も必要になりますが、海外在住者でも日本国籍であれば戸籍があるので、本籍地住所の市町村役場で戸籍謄本を取得することができます。日本にいる相続人や税理士・司法書士等の専門家に依頼し、代理で取得してもらうといいでしょう。
署名証明は「サイン証明」とも呼ばれる書類で「署名した人を証明する」公的な書類です。遺産分割協議書に添付する印鑑証明の代わりとして使用することができ、居住している国の日本大使館や日本領事館が交付を行います。
<署名証明の取得に必要なもの>
・パスポート
・遺産分割協議書
※①綴り合わせ様式を取得する場合
・1通につき1,700円相当の現地通貨
署名証明には、2つの種類があります。形式や証明能力に大きな違いがあるため、遺産分割協議を行う財産によって、どちらの署名証明が必要になるのかを検討しましょう。
擦り合わせ様式とは、日本大使館などが発行する証明書を署名する私文書(遺産分割協議書)と綴り合わせ、公印により割印を行う様式のことです。
大使館職員の前で署名・拇印することで、大使館が「署名・拇印した人は本人で間違いありません」という署名証明が貼り付けられます。この様式は、大使館職員の前で署名した書類(遺産分割協議書)専用の署名証明となり、他の場面で使用することはできません。
<形式①綴り合わせ様式のイメージ>
綴り合わせ様式は、証明力の強い証明書であるため、不動産の相続登記を行う際に高い確率で要求されることになります。後術する形式②の様式では相続登記を行えない場合もありますので、遺産分割協議書により不動産の相続登記を行う場合は、この「形式①綴り合わせ様式」を取得するようにしましょう。
単独様式は、綴り合わせ様式のように書類と一体化せずに単独で発行される署名証明です。印鑑証明のように証明書が1枚発行されるだけなので、大使館などに遺産分割協議書を持ち込む必要はありません。「筆跡が同じ」ということをもって証明されます。
<形式②単独様式のイメージ>
単独様式の署名証明では、不動産の相続登記で証明力が不十分と判断される可能性があります。遺産分割協議書に不動産がなく、金融機関などでの名義変更に使うだけであれば、こちらの単独様式での署名証明で問題ありません。
綴り合わせ様式であっても、単独様式であっても代理申請や郵便申請は認められていません。申請する人が大使館や領事館などへ出向いて申請することが必要です。一時帰国している場合は、日本の公証人役場で署名証明を取得することもできます。
銀行口座などの名義変更に署名証明を利用する場合、金融機関によっては発行から3か月、6か月などの期限が設定されている場合があります。不動産の相続登記に利用する場合には有効期限はありませんので、銀行口座などの名義変更を優先的に行ったほうがいいでしょう。
在留証明とは、海外の住所を大使館などが証明する書類です。在留証明と署名証明を添付することで現住所と署名を証明でき、相続手続きを行うことができます。在留証明の発行には、現地に3か月以上滞在かつ現在も居住していることが条件になります。
<在留証明の取得に必要なもの>
・パスポート
・賃貸契約書や公共料金の請求書など滞在期間と居住地がわかるもの
・本籍入り(番地まで記載)の在留証明の取得には「戸籍謄本」
・1通につき1,200円相当の現地通貨
不動産の相続登記が必要な場合の在留証明には、必ず「本籍入り(番地まで記載)の在留証明」が必要になります。戸籍謄本は海外で取得することができませんので、事前に親族や専門家などに代理で取得してもらい、郵送してもらうようにしましょう。書類のやりとりは時間がかかりますので、早めからの行動が重要です。
在留証明は、署名証明のように日本国内で取得することができません。一時帰国する場合は、在留証明だけは忘れずに事前に取得するようにしましょう。
海外には、シンガポールやマレーシアなど、相続税制度がない国もあります。これらの国に住んでいると相続税がかからないと思われる方もいらっしゃいますが、簡単には日本の相続税課税から逃れることはできません。
相続財産が日本国内のものであれば課税対象になりますし、移住しても10年以内に相続が発生した場合は国内外の財産が課税対象になります。海外在住であっても、多くのケースで相続税申告が必要になります。
<相続税の納税義務者>
(出典:国税庁)
・黒塗りの区分に該当する相続人が相続または遺贈により取得した財産については、国内財産および国外財産に関わらず、すべて課税対象
・黒塗りの区分以外に該当する相続人が相続または遺贈により取得した財産については、国内財産のみが課税対象
相続税は、相続が発生してから10か月以内に申告書の提出と納税を行わなければなりません。期限後申告、納税になってしまうと無申告加算税と延滞税が発生し、遅れれば遅れるほどペナルティが重くなります。
特に海外在住の場合は、国際郵便による書類のやり取りが発生するため、早めから取りかからなければ提出期限に間に合わなくなってしまいます。協力してくれる他の相続人が日本にいない場合は、ご自身で戸籍謄本の取得や財産調査などを行わなければならず、多くの期間を要してしまうでしょう。
相続税申告を効率的に進めるためには「相続税に特化した税理士」に依頼することが重要です。
海外在住の相続人が相続税を納付するためには、原則として「納税管理人の届け出」の提出が必要です。しかし、日本国内に銀行口座がない人が税務署へ直接納付する場合には、銀行手続きが煩雑になるため、一般的には「日本国内の銀行口座への振り込み」または「家族に代理で納付してもらう」方法により納税を行うことがほとんどです。
ご自身名義の日本国内の銀行口座がある場合は、その口座へ海外送金を行い、インターネットバンキングなどで納付することができます。基本的には日本の銀行口座は国内居住者のみしか保有することができませんが、手続きを行うことで海外在住であっても銀行口座を継続して保有することができる場合があります。
日本国内に家族がいる場合は、家族の銀行口座へ海外送金し、立て替えて代理で納税してもらう方法があります。精算をしっかりとしなければ贈与になってしまうおそれがありますので、トラブルを避けるためにもしっかりと記録を残しておきましょう。
海外在住者の方が相続人になると、通常の相続手続きよりも複雑になります。また、書類のやり取りに要する期間を計算に入れて相続税申告を進めていかなければならないため、効率的に進めていく必要があります。
当事務所は「海外在住の方の相続手続きに強い税理士事務所」です。お客様の手間を最小限にし、スムーズに相続手続きを行えるように進めてまいります。また、相続税申告手続き以外にも「国内金融機関の口座解約・不動産登記・不動産の売却支援」等の手続きも全てオンラインで一括依頼が可能です。
当事務所では、海外在住の方からの相続税申告、手続きについてのご相談も承っております。下記のお問い合わせフォームより、お気軽にお問い合わせください。
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この記事の執筆者:渡邉 優
「渡邉優税理士事務所」代表。相続の中でも“不動産にお困りごとを抱える相続”の対応を得意としている。