亡くなった被相続人や財産を相続する相続人が外国籍、または外国に居住している、あるいは相続財産が外国にあるといった国際的な要素を持つ相続である「国際相続」では、「どの国の法律に従って相続手続きを進めるべきか」を判断することが非常に重要です。
どの国の法律を採用するかを決めることを「準拠法の決定」と言います。準拠法の決定はルールに従って判断しなければならず、判断を誤ってしまうと手続きが進まずに遺産分割が難しくなってしまうリスクがあります。ここでは、国際相続の基礎知識である「準拠法」について詳しく解説します。
目次
国境を越える私的法律関係(国際相続、国際結婚、国をまたぐ契約など)は、国際私法によって「どの国の法律を適用するか(準拠法)」を決定します。
日本では「相続は、被相続人の本国法による」と定められており、原則的に相続が開始された時点での亡くなった方の国籍によって判断されることになります。つまり、日本国籍の人が亡くなった場合には日本の法律、シンガポール国籍の人が亡くなった場合にはシンガポールの法律が適用されることになります。
【被相続人の国籍と準拠法】
被相続人の国籍 | 準拠法 |
単一国籍 | ・被相続人が日本国籍であれば日本の法律、外国籍であればその国の法律が準拠法になる。 |
複数国籍(いわゆる二重国籍) | ・日本国籍が含まれる場合:日本の法律が準拠法になる。
・日本国籍が含まれない場合:常居所地(通常生活している場所)の法律が準拠法になる。 |
無国籍 | ・被相続人の常居所地の法律が準拠法になる。 |
・反致(はんち)について
日本では「相続は、被相続人の本国法による」と定められていますが、その国の法律で「相続は日本の法律による」とされている場合があります。
日本に財産がある場合や被相続人の常居所地が日本であった場合に、その国の法律では「日本法を適用する」となっている場合、適用される法律が相手国から日本に戻ってくることになります。
「日本法⇒その国の法律⇒日本法」と法律が回り道して最終的に日本法に戻ってくる状況を「反致(はんち)」と言い、準拠法を決定するうえで注意しなければならないポイントです。
前述したとおり、日本では「相続は、被相続人の本国法による」という考え方で準拠法を決定します。この考え方を「相続統一主義」と言います。一方、財産の種類によって被相続人の本国法を適用するかどうかを判断する考え方を「相続分割主義」と言い、アメリカやイギリスなどがこの考え方を採用しています。
準拠法の分類 | 考え方 | 採用している国 |
相続統一主義 | 財産の種類で区別することなく、全相続財産について被相続人の国籍や居住地の法律を準拠法とする。 | 日本、韓国、EU加盟諸国(アイルランド、デンマークを除く) |
相続分割主義 | 相続財産の種類によって準拠法が分かれる。不動産については所在地の法律、動産については被相続人の住所地の法律を準拠法とする。 | アメリカ・イギリス・中国・シンガポール・オーストラリアなど |
原則的な準拠法は、各国で相続統一主義または相続分割主義により決められています。しかし、例外的に「遺言」で準拠法を指定することができる国も存在します。
例えば、韓国では被相続人による準拠法選択が認められています。遺言で被相続人の常居所のある国の法律を相続の準拠法に指定し、亡くなる時まで居住していた場合には、その常居所のある国の法律を適用することができます。(韓国国際私法49条1項)
国によっては、遺言で指定することにより準拠法が選択できる場合もあるため、国際相続の生前対策を行う際には注意しましょう。
外国に財産がある日本人が亡くなった場合の相続手続きについて、準拠法の判断をふまえて見ていきましょう。ここでは、イギリスに財産がある日本に居住する日本国籍の人が亡くなった場合の相続について解説します。
日本に居住する日本国籍の方が亡くなった場合、日本にある遺産の相続についての準拠法は「日本法」になります。そのため、相続人の範囲や相続分などは日本法に従うことになり、相続財産の手続きについても同様に遺言書や遺産分割協議書に基づいて行われることになります。
日本国籍の被相続人がイギリスに不動産や銀行預金を保有していた場合、イギリスにある財産の相続手続きはイギリスで行います。イギリスの準拠法は「相続分割主義」が採用されており、不動産については不動産がある国の法律が準拠法になり、動産については被相続人の居住地の法律が準拠法になります。
そのため、イギリスにある不動産についてはイギリスの法律が準拠法になり、相続人の範囲や相続分などについてはイギリスの法律によることになります。銀行預金などについては日本の法律が準拠法になり、財産の種類によって準拠法が異なるため注意が必要です。
日本では、相続人だけで自由に遺産分割を行うことができますが、国によっては裁判所の監督下で清算手続きを行わなければならない国もあります。この手続きを「プロベイト手続き」と言います。イギリスもプロベイト手続きが必要な国であるため、現地に代理人(弁護士)をたて、裁判所にプロベイトの申立てを行うことになります。
亡くなった被相続人が日本の居住者である場合、国内財産・国外財産ともに日本で相続税の対象になります。(居住無制限納税義務)当然ながら、イギリスにある財産についても日本の相続税の課税対象になり、申告が必要です。
一方、イギリスでは、イギリス国内にある財産についてイギリスで相続税が課税されます。日本においても相続税が課税されることになるため、二重課税の問題が発生することになりますが、日本の相続税申告においてイギリスで支払った相続税相当額を控除する「外国税額控除」を受けることができます。
国外財産の相続税の納税義務の判定については「【国外の財産に相続税はかかる?】相続税の納税義務の判定を解説!」をご覧ください。
外国税額控除については「【海外に財産がある場合は注意】外国税額控除で二重課税を回避する方法」で詳しく解説しています。
A.日本においては、亡くなった被相続人の国籍の国の法律が適用されることになります。被相続人の国籍が日本であれば日本の法律が適用され、アメリカ国籍であればアメリカの法律が適用されます。
A.いいえ。必ずしもそうとは限りません。世界には、相続財産の種類や所在地によって適用される法律を区別する「相続分割主義」を採用している国があるため、財産がある国と財産の種類によっては被相続人の本国法ではなく、その財産がある国の法律が適用される場合があります。
A.国際相続における準拠法と相続税の納税義務は、それぞれ異なるルールに基づいて判断されるため、直接的に連動するものではありません。日本の相続税については、日本国外に財産がある場合に「被相続人の住所が国内にあるか」「被相続人や相続人が日本国籍なのか」「一時居住者かどうか」などにより判定することになり、準拠法が判断基準ではありません。
A.準拠法の決定は、日本の法律だけでなく、相手国の法律が相続統一主義なのか、それとも相続分割主義なのかによって異なります。また、相手国の法律に従うと結果的に日本の法律が準拠法であると判断される「反致(はんち)」になる場合もあるため、準拠法の判定には極めて専門的な知識と調査能力が求められます。
この判断は、一般の方が正確に理解することは極めて難しいとされていますので、国際相続に詳しい弁護士や税理士などの専門家に相談されることをおすすめします。
国際相続では、日本と外国の法律や制度、そして手続きが複雑に絡み合います。準拠法1つをとっても判断が難しく、もし判断を誤ってしまえば相続手続きを進めることができなくなり、トラブルの原因となってしまいます。
当事務所では、国際相続についてのご相談にも対応しております。海外移住をしている方や海外で財産を運用されている方などで日本の相続税が課税になるのかどうかお悩みの方は、お気軽に下記お問い合わせフォームよりご連絡ください。
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この記事の執筆者:渡邉 優
「渡邉優税理士事務所」代表。相続の中でも“不動産にお困りごとを抱える相続”の対応を得意としている。