相続で一番重要なことは「相続人を確定させること」です。「相続人は家族以外にいないだろう」と思い込み、相続手続きを進めてしまうと、家族も知らない相続人が存在した場合、相続手続きがさらに複雑になってしまいます。
相続人を確定させるためには「戸籍調査」を行います。戸籍調査を行ったうえで亡くなった被相続人と相続人との関係性を確定させ、その一覧を図にしたものが「相続関係説明図」です。
相続関係説明図があると、相続税申告の他、各種相続手続きを行う際に非常に便利です。自分でも簡単に作成することが可能です。ここでは「相続関係説明図の作り方」について詳しく解説します。
目次
被相続人と相続人の関係は「戸籍」で証明することができますが、相続手続きを行う際に戸籍を1つ1つ確認しながら「戸籍に書いてあるこの人が長男で、この戸籍が次男で…」と説明するのは大変です。手続き先が1か所だけならいいのですが、相続手続きを行わなければならない金融機関が多い場合や税理士や司法書士へ相談する場合などには、説明するだけで多くの時間を費やしてしまいます。
そこで、戸籍上での被相続人と相続人の関係性をひと目でわかるように可視化した図が「相続関係説明図」です。
主な相続関係説明図の利用目的は次の2つです。
相続関係説明図は、一般的に家系図形式で作成されます。ツリー形式で作成された図には「誰と誰がどのような関係であるか」「相続人は全員で何人いるのか」をひと目で把握することができます。
相続人が1人や2人の少人数であれば相続関係説明図の有効性は低いですが、相続人の人数が多い場合の相続手続きでは相続関係説明図の作成は非常に有効です。
不動産の相続がある場合、相続した不動産の名義を変更する「相続登記」を行います。相続登記の際には「戸籍謄本の原本」を提出しなければなりませんが、添付書類として相続関係説明図を添付することで「被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本」「相続人の戸籍」の原本を返却してもらうことができます。
その他の書類の原本も別途コピーを添付し「これは原本に相違ありません」と記載することで原本を還付してもらえます。
また、金融機関での銀行口座の名義変更を行う際に相続関係説明図を添付すると手続きにかかる時間を短縮することができます。多くの金融機関では「原本を返却してください」と伝えておくと戸籍の原本一式を返却してもらえます。
相続手続きでは、戸籍謄本が必要になる場面が多くあります。原本を返却してもらうことで書類取得の手間を削減し、手数料の節約にもなります。
相続関係説明図と似た書類に「法定相続情報一覧図」があります。相続関係説明図は任意で作成された書類ですが、法定相続情報一覧図は法務局に申請することで取得できる公的な書類です。
相続関係説明図 | 法定相続情報一覧図 | |
メリット | ・手軽に作成できる
・法務局への申請が必要ない ・相続登記で戸籍の原本を還付してもらえる |
・相続手続きで戸籍の原本の提出が必要ない
・公的な証明であるため様々な手続きが可能 |
デメリット | ・公的な証明ではない | ・法務局に申請が必要
・ルールが厳格である |
相続関係説明図よりも法定相続情報一覧図の方が使い勝手がいいのですが、作成には厳格なルールがあり、法務局の認証を受けなければなりません。一般的には、相続手続きや相続登記の数が少ない場合は相続関係説明図、多い場合は法定相続情報一覧図といった使い分けを行います。
相続手続きのうち、相続関係説明図があると便利な手続きは次のとおりです。
・不動産の相続登記
⇒戸籍の原本還付が行える
・銀行口座の解約・払い戻し
⇒手続き時間を短縮できる
・税理士や司法書士、弁護士への相談
⇒相続関係説明図を使って説明することで確実に相続関係を伝えることができる
・家庭裁判所での遺産分割調停
⇒申し立ての際に相続関係説明図の提出が要求されることがある
相続関係説明図は次の3つのステップで作成を行います。
相続関係説明図の作成には、次の書類を集める必要があります。
・被相続人の生まれたときから亡くなるまでの戸籍謄本一式
・被相続人の除票または戸籍の附票
・相続人全員の戸籍謄本
・相続人全員の住民票または戸籍の附票
2024年3月1日より「戸籍の広域交付制度」が開始され、最寄りの市区町村の窓口で必要な被相続人の戸籍をまとめて取り寄せることが可能です。
戸籍の広域交付制度とは
従来までは、被相続人の戸籍謄本などについて、被相続人の本籍地の市区町村に請求して取得しなければならず、本籍地が変わっている場合には取得まで非常に手間がかかっていました。
戸籍の広域交付制度では、配偶者・直系尊属(父母や祖父母)・直系卑属(子や孫)が最寄りの市区町村の窓口でまとめて請求することが可能になりました。対象になる戸籍謄本などはコンピューター化されているものに限られており、古い戸籍の一部がコンピューター化されていない場合は広域交付が利用できません。
請求については、兄弟姉妹の戸籍謄本等の取得はできませんので、注意が必要です。また、司法書士や弁護士などの資格者による戸籍謄本等の職権取得は広域交付制度の対象外になっています。
現状(令和6年7月)では、窓口の混雑もあり、交付までに時間がかかる場合や後日交付になる場合、広域交付で対応できずに本籍地への請求となる場合もあります。
相続関係説明図の作成には「被相続人の氏名・生年月日・死亡年月日・最後に登録していた住所」「すべての相続人の氏名・住所・生年月日・被相続人との関係性」の情報が必要になります。すべての情報は集めた戸籍に記載されていますので、間違いないように確認しましょう。
情報の確認後、実際に次のような相続関係説明図を作成します。
相続関係説明図の書き方
・一番上のタイトルを「相続関係説明図」にする
・被相続人の欄には亡くなった人を記載
・相続人全員を記載する
・被相続人の配偶者は二重線で結ぶ、その他は線で結ぶ
相続関係説明図はあくまでも任意で作成する書類であるため、書き方にルールがあるわけではありませんが、一般的には法定相続情報一覧図に準じた上記のような書き方で作成します。
難しいものではなく、自分でExcelを利用し簡単に作成することが可能です。
法務局のホームページには、法定相続情報一覧図テンプレート(Excel)が用意されています。相続関係説明図ではないため、タイトルなどを変更する必要がありますが、このテンプレートを利用すると簡単に相続関係説明図を作成することが可能です。
代襲相続が発生した場合や養子縁組をしている場合など、相続関係が複雑なケースにも対応した記載例が用意されていますので、該当する場合には参考にするといいでしょう。
相続人の関係性を明らかにすることは相続手続きで非常に重要です。相続が発生したら早めに戸籍謄本を取得し、相続関係説明図を作成しておくと手続きがスムーズに進み、複雑な相続手続きを効率的に進めていくことができます。
「戸籍を読み取ることが難しい」「相続関係説明図の作成に自信がない」といった場合には、専門家に相談してみるとサポートを受けることができます。
当事務所では、相続に関する専門家と提携し、ワンストップで相続手続きを完了することが可能です。相続に関するお問い合わせは以下の問い合わせフォームより、お気軽にご連絡ください。
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監修者情報
この記事の執筆者:渡邉 優
「渡邉優税理士事務所」代表。相続の中でも“不動産にお困りごとを抱える相続”の対応を得意としている。