国際相続における公正証書遺言の有効性と遺言のポイント

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国際相続における公正証書遺言の有効性と遺言のポイント

国際相続は複数の国の法律が絡み合うため、スムーズに手続きを完了させることが難しいケースも少なくありません。国際相続を円滑に進めるためには「遺言書の存在」が非常に重要になります。

 

国際相続において遺言書が大切だと理解していても「日本で遺言書を作成した場合、他の国でも有効なのだろうか?」と悩まれている方もいらっしゃるのではないでしょうか。

 

ここでは「国際相続における日本で作成した公正証書遺言の有効性やスムーズな手続きのために押さえておくべきポイント」について詳しく解説します。

 

公正証書遺言とは?

遺言は、遺言者の最終的な意思を法的に確実に残すための方法です。特に、法律の専門家である公証人が遺言者から直接遺言の趣旨を聞き取り作成する「公正証書遺言」は、法律的な要件の不備が生じにくく、遺言が無効となるリスクが非常に低いというメリットがあります。

 

また、通常の遺言書(自筆証書遺言)は、遺言書が亡くなった後に家庭裁判所での「検認手続き」が必要になるのに対し、公正証書遺言は検認手続きが不要です。相続人が海外に居住しているケースが多い国際相続では、検認手続きや遺産分割協議を行わずに相続財産の名義変更等の相続手続きを進めることができるため、公正証書遺言の作成は非常に有効な方法になります。

 

※日本で公正証書遺言を作成するためには、日本語で作成すること、署名・押印が必要などいくつかの要件はありますが、在日外国人が作成する場合であっても法的な問題はありません。

 

海外でも日本で作成した公正証書遺言は有効?

国際相続で悩まれるポイントは「日本で作成した公正証書遺言は海外でも有効なのかどうか」ということです。公正証書遺言の海外での有効性について「日本国籍の日本在住者が海外に財産を保有する場合」と「海外在住の日本国籍者が日本に財産を保有する場合」の2つのパターンに分けて見ていきましょう。

 

日本国籍の日本在住者が海外に財産を保有する場合

日本に居住する日本国籍者が海外に財産を持っている場合であっても、日本の方式で作成された遺言書は日本の法律上では有効です。(遺言の方式の準拠法に関する法律:第2条第1号)

 

ただし、日本の法律では有効であっても、海外にある財産については日本の遺言書がそのまま有効だとは限りません。海外で日本の遺言書が有効かどうかについては、その国の法律に依存することになります。

 

基本的には「遺言の方式に関する法律の抵触に関する条約」に批准している国であれば、日本の方式で作成された遺言書は、その国においても法的に有効として扱われる可能性が高まります。

 

海外在住の日本国籍者が日本に財産を保有する場合

海外に住む日本国籍者であっても、日本で公正証書遺言を作成することは可能であり、日本にある財産については遺言書に基づいて手続きを行うことができます。特に、相続人の中に外国籍の人がいる場合、遺言書がなければ海外の書類を取り寄せる手間などが生じるなど、手続きが複雑化してしまいます。公正証書遺言があることで手続きの煩雑さを大きく軽減することが可能になります。

 

海外にある財産について日本の遺言書が有効かどうかは、その国の法律に依存することになるため確認が必要です。

 

外国で作成した遺言書は日本でも有効?

日本で作成した公正証書遺言は日本においては有効ですが、海外ではその国の法律によって有効かどうかが異なります。では、外国で作成した遺言書は日本で有効なのでしょうか。外国で作成した遺言書の日本での有効性について見ていきましょう。

 

遺言書が有効かどうかの判断基準

遺言書は国ごとで方式が異なるため、国際相続では他の国で作成した遺言書が有効かどうかを確認する必要があります。判断基準となる「遺言の方式の準拠法に関する法律 第2条」では有効になるケースを次のとおりに定めています。

 

【国際相続で遺言書が有効になるケース】

・行為地法:遺言を作成した国の法律

・本国法:遺言作成時または死亡時の国籍国の法律

・住所地法:遺言作成時または死亡時の住所地の法律

・常居所地法:遺言作成時または死亡時に継続して居住していた国の法律

・不動産所在地法:不動産がある国の法律

 

海外で作成された遺言書であっても、上記のいずれかのケースに該当すれば、日本でも有効な遺言書として取り扱われます。ただし、遺言書の「成立」や「効力」は遺言者の本国法によって判断されるため、遺言者の国籍の国の相続法がどのようになっているのかを確認しなければなりません。

 

また、どの国の法律に従って相続手続きを進めるのかも重要です。準拠法については「国際相続の基礎知識「準拠法」とは?」をご覧ください。

 

海外の公証人が作成した遺言書は公正証書遺言?

「外国の公証人(ノータリー・パブリック)が作成した遺言書は公正証書遺言になるのではないか」と思われる方もいらっしゃると思いますが、日本と海外の公証人の制度に違いがあるため、日本では外国の公証人が作成した遺言書は「自筆証書遺言」と同様の取り扱いになります。

 

そのため、外国の公証人が作成した遺言書の場合、遺言書により銀行預金の解約や不動産の相続登記などの相続手続きを行うことができません。また、遺言書の正確な日本語訳や現地弁護士の意見書などが求められる場合が多く、手続きが煩雑になるおそれがあります。

 

国際相続を円滑に進めるためには「相続財産のある国ごとに遺言書を作成すること」

国際相続を円滑に進めるためには、効果的に遺言書の作成を行うことが必要不可欠であり、最も効果的なことは「相続財産のある国ごとに遺言書を作成すること」です。

 

ここまで見てきたとおり、日本で作成した遺言書は日本では有効であっても、海外ではその国の法律に依存することになるため、必ずしも遺言書が認められるとは限りません。一方で、海外で作成された遺言書は有効なケースに該当していれば認められますが、遺言書の正確な日本語訳や現地弁護士の意見書など、手続きに多くの手間と時間がかかってしまいます。

 

これらのデメリットを解消するためには「資産が所在する国ごとに、その国の法制度に則った遺言書をそれぞれ作成すること」が最善策です。

 

例えば、日本の財産については日本の公正証書遺言を作成し、アメリカの財産についてはアメリカの州法に則った遺言書を作成することで、それぞれの国でスムーズに相続手続きを進めることができます。特に、アメリカのプロベート(検認裁判)のような複雑な手続きがある国では、遺言書の他にも生前信託(リビングトラスト)を活用することが効果的です。

 

それぞれの遺言書の内容が矛盾しないように注意

複数の国で遺言書を作成する場合には、各遺言書の内容が矛盾しないようにしなければなりません。もし、同一の財産に対し、複数の遺言書で異なる内容が記載されている場合は、原則として日付が新しいものが優先されることになり、日付が古い遺言書は一部または全部が無効になってしまうリスクがあります。

 

無効な遺言書にならないためにも、その遺言書が「どの国の、どの資産に対してのみ効力を持つのか」を明確に記載するようにしましょう。

 

国際相続における公正証書遺言のQ&A

Q.国際相続では、公正証書遺言ではなく、自筆証書遺言でも有効ですか?

A.国際相続であっても自筆証書遺言は有効です。ただし、自筆証書遺言の場合、家庭裁判所での検認手続きが必要になり、相続人が外国に居住している場合、ケースによっては日本に来てもらう必要が出てしまいます。公正証書遺言の場合は、検認手続きが必要なく、公正証書遺言だけで相続手続きを行うことができるため、国際相続で効果的です。

 

Q.遺言書がない場合、国際相続ではどのような問題がありますか?

A.遺言書がない国際相続では手続きが複雑化してしまうリスクがあります。日本では遺産分割により相続財産の分け方を相続人で決めることができますが、国によっては法律で定められた法定相続分で遺産を分割する制度になっていることもあります。これにより、予期せぬ人物が財産を相続してしまうおそれが生じることもあるため、生前のうちに必ず遺言書を作成しておくことが重要です。

 

Q.外国人でも日本で公正証書遺言を作成できますか?

A.可能です。ただし、公正証書遺言は日本語で作成することが義務付けられているため、利害関係者以外の信頼できる第三者の通訳を準備する必要があります。

 

まとめ

国際相続は複数の国の法律が絡むため、複雑な手続きとなります。残された家族に負担をかけないためにも、そしてスムーズに手続きを完了するためにも公正証書による遺言書の作成をおすすめします。

 

当事務所は、国際相続についてのご相談にも対応しております。海外に財産がある方や海外に住んでいる方で日本に財産がある方などで「将来に備えて遺言書を作成したい」という場合は、お気軽に下記お問い合わせフォームよりご連絡ください。

 

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この記事の執筆者:渡邉 優

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この記事の執筆者:渡邉 優

「渡邉優税理士事務所」代表。相続の中でも“不動産にお困りごとを抱える相続”の対応を得意としている。

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