相続人が障害者なら確認しよう!障害者控除の具体例と計算方法を徹底解説!

相続人が障害者なら確認しよう!障害者控除の具体例と計算方法を徹底解説!

相続税の障害者控除は、障害を持つ相続人の税負担を大幅に軽減する重要な制度です。

 

医療費や介護費用など特別な支出が多くなる障害者が、被相続人の死後も経済的に安定した生活を送るため、この制度を正しく理解し活用することが不可欠です。

 

本記事では、控除対象者や申告方法、最大で数千万円にも及ぶ可能性がある控除額の計算方法など、障害者本人やその家族に役立つ詳細な情報を解説します。

 

また、控除適用時の注意点やよくある質問についても紹介しますので、ぜひ最後までお読みください。

 

なお、障害者の表記については、「障碍者」や「障がい者」など、近年さまざまな考え方が示されていますが、本記事では相続税法の条文にならい「障害者」と記載しています。

 

相続税の障害者控除とは?

 

障害をお持ちの方が相続人の場合は、相続税の負担を軽減するため「障害者控除」という税制上の優遇制度が利用できます。

 

ここでは、障害者控除の概要を解説します。

 

障害者控除とは?

「障害者控除」は、相続人が障害を持っている方の場合に適用される相続税の特例で、障害者である相続人の相続税額を減額できる制度です。

 

相続が発生した時から85歳に達するまでの年数分、一般障害者に該当する方は1年ごとに10万円(特別障害者に該当する方は1年ごとに20万円)が控除されます。

 

たとえば、一般障害者の方が50歳で相続すると、85歳までの35年分(85歳 – 50歳)として、最大350万円を相続税額から差し引くことができます。

 

障害の程度に応じて「一般障害者」と「特別障害者」に分類され、相続時の年齢や障害の程度により、控除額が細かく分かれる点に注意が必要です。

 

控除額については、「障害者控除でどれだけ税金が変わる?」で詳しく解説しているため、あわせてご覧ください。

 

相続税の障害者控除と基礎控除の違い

 

「基礎控除」は、相続人の生活基盤を保護するために設けられており、すべての相続に適用される控除です。

 

相続税を計算する際、相続財産の総額から基礎控除額を差し引くことで、課税対象の財産を減らし、納税額を軽減します。

 

それに対し「障害者控除」は障害を持つ相続人にのみ適用される特別な控除です。算出された相続税額から、「障害者控除額」を直接控除する点が「基礎控除」とは異なります。

 

障害者控除を受けられる人は?

 

障害者控除は、一定の要件を満たす障害者が受けられる、相続税の優遇制度です。

 

ここでは、障害者控除の適用を受けられる方の具体的な要件や、控除の対象外となるケースについて詳しく解説します。

 

障害者控除を受けるための要件

障害者控除を利用するには、以下のすべての要件を満たすことが必要です。

 

・「一定の障害者」に該当すること

・日本国内に住所があること

・法定相続人であること

・相続開始時に85歳未満であること

 

上記のように、障害者であることに加え、法定相続人であることや住んでいる場所、年齢などの条件も満たす必要があります

 

また、障害についても一定の要件を満たしている方だけが対象となる点に、注意しましょう。

 

控除対象の障害者とは?

障害者控除は、障害の程度に応じて「一般障害者」と「特別障害者」に分類されます。

 

一般障害者

一般障害者は、以下のような判定や手帳の交付を受けた方が該当します。

 

・特定の機関や精神保健指定医によって「知的障害者」と判定された方

・精神障害者保健福祉手帳の交付を受けている方

・一定の身体障害者手帳の交付を受けている方

・戦傷病者手帳の交付を受けている一定の方

 

特別障害者

より重い障害を持つ方は、特別障害者に分類されます。

 

・精神上の障害により、理解や判断力が著しく低下している常況にある方

・重度の知的障害者と判定された方

・精神障害者保健福祉手帳の交付を受けている場合、障害等級が1級の方

・身体障害者手帳の交付を受けている場合、障害等級が1級または2級の方

・戦傷病者手帳の交付を受けている場合、障害等級が恩給法で定められた特別項症から第3項症までに該当する方

・原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律の規定による厚生労働大臣の認定を受けている方

 

上記に該当しない場合でも、障害者控除の対象者に該当することがあるため、迷いや不安がある方は税務署や税理士など、専門家に相談することをおすすめします。

 

控除の対象者ではないケース

以下のようなケースは、障害者控除の対象外です。

 

・相続開始時に85歳以上である場合

・相続により財産を取得していない場合

 

相続税の障害者控除額は、相続が発生した時から85歳までの年数を基に算定するため、85歳以上の方は障害者控除を適用できません。

 

また、原則として相続財産を受け取った法定相続人が控除の対象者です。このため、障害を持つ相続人が相続財産を全く受け取らない場合は、障害者控除を適用できない点に注意しましょう。

 

障害者控除でどれだけ税金が変わる?

 

相続税の障害者控除額は、障害をお持ちの方の年齢や障害の程度によって大きく異なります。そのため、計算には注意が必要です。

 

ここでは、具体的な計算方法を詳しく解説します。

 

控除額はどうやって決まる?

障害者控除の額は、「障害者の年齢」と「障害の程度」によって決まります。

 

相続発生時から85歳に達するまでの年齢数分、一般障害者に該当する方は1年ごとに10万円、特別障害者に該当する方は1年ごとに20万円です。

 

障害者控除額の計算方法

相続する障害者の方の「相続開始時の年齢」と「障害の程度」を確認し、以下のように計算します。

 

 

 

控除額が余った場合はどうなる?

障害者控除額が、障害を持っている方の相続税額を超える場合、その超過分は扶養義務者である他の相続人の相続税額からも控除が可能です。

 

 

この制度の目的は、障害者の生活を支える可能性が高い近親者の税負担を軽減することで、扶養義務者とは、以下の親族を指します。

 

・配偶者

・直系血族(父母、祖父母、子、孫など)

・兄弟姉妹

・場合によっては三親等以内の親族

 

余った控除額の分配方法は、実際の扶養関係に関わらず、相続人間での話し合いで自由に決められます。

 

しかし、扶養義務者以外の親族には分配できません。

 

たとえば、遺言書などで親族以外の方も財産を受け取る場合、余った障害者控除の分配はおこなえない点に注意しましょう。

 

納税額のシミュレーション

 

ここからは、障害者控除額が余った場合、障害を持つ相続人だけではなくほかの親族も含めた納税額の変化を確認しましょう。

 

今回は、以下のケースでシミュレーションします。

 

 

基礎控除額は、3,000万円をベースに +「 600万円 ×法定相続人の人数 」が加算されます。

 

そのため、このケースの基礎控除額を差し引いた課税遺産総額は、以下のとおりです。

 

 

この遺産を各自が法定相続分どおりに相続すると、相続税は以下のようになります。

 

 

このように、障害者控除は余った控除額を扶養義務者である姉に分け与えることができるため、家族全体の相続税納付額を軽減できます。

 

なお、このケースの場合は課税遺産額が1,000万円超〜3,000万円以下なので、税率を15%、控除額は50万円で相続税額を算出しています。

 

相続税率や控除額は取得する金額によって異なるため、詳細は国税庁のホームページをご確認ください。

 

障害者控除の申告方法は?

 

障害者控除を適切に受けるためには、正確な申告手続きが不可欠です。

 

ここでは、申告に必要な書類や記入方法を解説します。

 

必要な書類は?

障害者控除を申告する際に必要な書類は、以下のとおりです。

 

・相続税の申告書(第1表)

・未成年者控除額・障害者控除額の計算書(第6表)

 

これらの書類は、国税庁のホームページから印刷可能です。申告する年によって、用紙が変わるため、必ず最新のものを使用しましょう。

 

なお、障害者手帳の写しなどは、原則として提出の必要はありません。しかし、申告した後で確認されることもあるため、可能であれば用意しておきましょう。

 

申告書の記載方法は?

国税庁のホームページに掲載されている「相続税の申告書の記載例」を参考に、以下のような必要情報を記入します。

 

・基本情報(氏名、住所、マイナンバーなど)

・取得する相続財産の価額

・算出された相続税額

・障害者控除額

・控除しきれない額や分配する扶養義務者の氏名 など

 

なお、申告する年によって相続税申告書の用紙が異なるため、国税庁のホームページでその年の様式一覧を確認し、記載例をご確認ください。

 

申告書や明細書には、正確な情報の記入が求められます。不安な場合は、税理士など専門家への相談も検討しましょう。

 

障害者控除の注意点

 

障害者控除は相続税の負担を大きく軽減できますが、適用には細かな条件や注意点があります。

 

ここでは、控除を正しく活用するために知っておくべき注意点を詳しく解説します。

 

相続するときにしか控除されない

障害者控除は、原則として障害を持つ相続人が、実際に相続財産を取得した場合にのみ適用されます。

 

たとえば、障害者本人が財産を管理するのが難しいと判断し、扶養義務者が代わりに財産を受け取るケースでは、障害者控除は適用できません。

 

結果として、障害者控除は利用できず、本来であれば他の相続人で分け合うことができた障害者控除も利用できなくなります。

 

そのため、自身での財産管理が難しい場合は、障害を持つ相続人の利益を守りながら、適切な財産管理ができるよう、成年後見制度や信託制度の活用も検討しましょう。

 

障害者手帳の交付を受けていなくても控除可能なケースもある

相続発生時点で障害者手帳を持っていなくても、申請中の場合は控除を受けられる可能性があります。

 

また、申請をおこなっていない場合でも、医師の診断書などで障害の程度が確認できれば控除を受けられる場合があります。不明な点がある場合は、税務署に確認しましょう。

 

2回目からは控除額が少なくなる

相続税の障害者控除は、以前に利用したことがあっても、再び利用できる場合があります。ただし、2回目以降に適用する場合は、控除額が減少する点に留意が必要です。

 

具体的には、以下の計算式で求められた金額のうち、いずれか少ない方が控除額となります。

 

A. (85歳 – 相続開始時の年齢) × 10万円(特別障害者は20万円)

B. 前回の相続で控除しきれなかった障害者控除額

 

たとえば、50歳のときに相続が発生し、控除額が200万円残っている特別障害者が、65歳で相続する場合、以下のように控除額が決まります。

 

 

このように控除額は少なくはなりますが、2回目以降も控除を受けることが可能です。再び相続の発生が予測される場合は、障害者控除額を残しておくことも検討しましょう。

 

障害者控除によくある質問

 

最後に、障害者控除についてのよくある質問を紹介します。

 

控除により相続税がなくなった場合はどうすればよい?

障害者控除の適用により相続税がゼロになった場合は、原則として相続税の申告は不要です。

 

しかし、次に相続が発生し、再び障害者控除を利用する際には、過去に適用された障害者控除額が必要になります。そのため、障害者控除の適用状況がわかるよう、計算結果などの適切な保管が必要です。

 

また、配偶者控除や小規模宅地等の特例など、申告しないと適用されない特例を利用する場合は、相続税額がゼロであっても申告が必要となる点に注意しましょう。

 

申告を忘れてた場合はどうすればよい?

障害者控除の申告を忘れた場合、「やり直し」や「訂正」を求める手続きが必要です。

 

この手続きを「更正」といい、税務署に対し「更正の請求」をおこなうことで、障害者控除を適用し減額された相続税の還付を受けられます。

 

更正の請求は、申告を忘れていた場合だけではなく、申告内容に間違いがあった場合にもおこなえます。

 

ただし、申告期限から5年以内と期限が定められているため、申告忘れや間違いがわかった場合は、速やかに手続きすることが重要です。

 

遺言で財産を受け取る場合も控除できるの?

遺言により財産を受け取る場合は、障害者控除を適用できない場合があります。

 

遺言により財産を受け取ることを「遺贈」といい、相続とは異なり遺贈は法定相続人以外でも財産を受け取ることができます。

 

しかし、障害者控除が適用できるのは、法定相続人のみです。

 

そのため、遺贈により法定相続人ではない障害者が財産を受け取る場合は、障害者控除が受けられない点に注意しましょう。

 

なお、障害者控除とは異なり、基礎控除は法定相続人以外にも適用されます。しかし、基礎控除額の計算には、法定相続人以外の受遺者は含まれない点に注意が必要です。

 

配偶者控除と併用できるの?

配偶者控除と障害者控除それぞれの要件を満たしていれば、どちらも適用可能です。

 

配偶者控除を適用すると、相続する財産が法定相続分もしくは1億6,000万円のいずれか多い金額以内であれば、相続税がかかりません。このため、多くのケースで配偶者控除の適用のみで相続税がゼロになります。

 

ただし、併用する場合は、配偶者控除を適用するために相続税の申告が必要となります。

 

まとめ

 

相続税の障害者控除は、障害を持つ相続人の経済的負担を軽減する重要な制度です。
本記事では、この制度の仕組みから申告方法、計算例まで、実務的な観点から詳しく解説しました。

 

障害者控除の主なポイントは、以下のとおりです。

 

・一般障害者は年間10万円、特別障害者は年間20万円が85歳までの年数分控除可能

・控除額が余った場合は、財産を受け取る他の扶養義務者にも分配可能

・障害者本人が実際に相続財産を取得することが必要

・2回目以降の相続では控除額が減少

・配偶者控除など他の控除との併用も可能

 

また、申告時には、以下の点に注意が必要です。

 

・適切な書類の準備と正確な記入が不可欠

・障害者手帳がなくても医師の診断書等で控除可能な場合あり

・申告忘れの場合は5年以内なら更正の請求が可能

 

この制度を適切に活用することで、障害を持つ相続人とその家族の税負担を大きく軽減できますが、状況に応じた細かな要件や計算方法の正しい理解が必要です。

 

当事務所では、障害を持つ方の相続に関するご相談を承っております。相続に関するお悩みがございましたら、以下の問い合わせフォームからお気軽にご連絡ください。

 

 

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この記事の執筆者:渡邉 優

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この記事の執筆者:渡邉 優

「渡邉優税理士事務所」代表。相続の中でも“不動産にお困りごとを抱える相続”の対応を得意としている。

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