不動産の相続税評価額は、被相続人が亡くなった時の「時価」によって評価することが基本になっており、土地や建物などの不動産も財産評価基本通達で定められた計算方法で算出することになります。
では、不動産の売買契約中に契約者が亡くなった場合の「時価」は相続税評価額を指すのでしょうか?それとも、売買金額を指すのでしょうか?
ここでは、売り手と買い手に分けて「不動産の売買契約中に相続が発生した場合の取り扱い」についてご紹介します。売却時の譲渡所得の申告についても解説しますので、ぜひ最後までお付き合いください。
目次
一般的な不動産の売買は、売買契約を締結後から不動産の引き渡し、代金の決済まである程度の期間を要します。稀ではありますが、売買契約締結から不動産の引き渡し、代金の決済までの間に契約者が亡くなってしまうと、原則的に「売買代金相当額を相続税評価額」として取り扱うことになります。
例えば、通常の相続税評価額が1億円の土地を1億5,000万円で売買する契約を行い、引き渡し前に売り主が亡くなった場合、相続税の課税対象は売買代金である1億5,000万円になります。
<国税庁質疑応答>
相続開始時点で売買契約中であった不動産に係る相続税の課税
①売買契約中に売主に相続が開始した場合
相続又は遺贈により取得した財産は、当該売買契約に基づく相続開始時における残代金請求権(未収入金)となります。
売買契約後、引き渡し前に売り手が亡くなった場合の相続税評価額は土地や建物の評価額ではなく「売買代金請求権」として売買代金を評価額として相続税申告を行うことになります。
不動産の売買契約では、契約成立時に手付金、残金決済・引渡し前に中間金を受け取るケースもあります。手付金や中間金を受け取り後、引き渡しまでに相続が発生したケースでは、売買代金から手付金や中間金を差し引いた、まだ受け取っていない残金が相続税の対象になります。
例えば、売買代金1億5,000万円の土地で、手付金1,000万円、中間金2,000万円を受け取っていた場合、残りの1億2,000万円が相続税の対象になります。
売買契約後、物件の引き渡し後に相続が発生した場合、既に不動産の所有権は買い手に移転しているため、不動産を相続財産に含める必要はありません。
既に売買代金が預金口座に振り込まれていれば、預金口座の残高が相続税の対象になります。もし売買代金の一部が入金されていない場合には、未収になっている金額を相続財産に含めて申告する必要があります。
相続財産に宅地がある場合、要件を満たすことで評価額を最大80%減額することができる「小規模宅地等の特例」という制度が用意されています。
土地の売買契約中に相続が発生した場合についても、小規模宅地等の特例が適用できるのではないかと思われる方もいらっしゃいますが、売買契約中である場合には小規模宅地等の特例を適用することはできません。
なぜなら、相続人が相続する財産は土地ではなく、売買契約に係る「債券(未収入金)」と考えることが一般的とされているためです。
小規模宅地等の特例については「【土地の評価を最大で80%減額】小規模宅地等の特例をわかりやすく解説!」をご覧ください。
不動産を購入する売買契約中に相続が発生した場合には、原則的に不動産の引渡しを受ける権利(引渡し請求権)を相続財産に含めることになります。
引渡し請求権の評価額は、売買代金と等しいと考えられるため、売買契約の金額が相続財産になります。売買代金の一部が未払いになっている場合には、未払の金額を債務として申告を行います。
<国税庁質疑応答>
相続開始時点で売買契約中であった不動産に係る相続税の課税
売買契約中に買主に相続が開始した場合
②相続又は遺贈により取得した財産は、当該売買契約に係る土地等又は建物等の引渡請求権等となり、当該被相続人から承継した債務は、相続開始時における残代金支払債務となります。
ただし、状況によっては次のような特例的な取り扱いにより評価することが可能です。
「売買契約から相続発生前までの期間が通常に比べて長期間である」など、売買代金が相続開始日における引渡し請求権として適当ではない場合、個別に評価した価額を評価額とすることができます。
買い手の相続税申告では、引渡し請求権ではなく、売買契約で取得する不動産そのものを相続財産として申告する方法も認められています。この場合の不動産の相続税評価額は財産評価基本通達により評価した価額になります。
一般的には、売買代金よりも財産評価基本通達による計算の方が低い評価額になるため、相続税の観点からは不動産として申告した方が有利になると思われます。
例えば、相続税評価額が1億円の土地を1億5,000万円で購入する契約中に相続が発生した場合、原則的方法での相続税評価額は1億5,000万円、特例的な取り扱い②では1億円が相続税の対象になります。
ただし、特例的な取り扱い②を適用したケースが訴訟事件となり、その審理の段階で引渡し前の相続財産が「土地等」であるとしても売買価額で評価するべきという主張もあるため、取り扱いには注意が必要です。
原則的方法では、引渡し請求権が相続財産であるため、土地そのものではないと考えられ、小規模宅地等の特例を適用することはできません。
特例的な取り扱い②の場合は、土地として申告するため小規模宅地等の特例が利用できる可能性も考えられます。被相続人の居住用や事業用であれば、小規模宅地等の特例のそもそもの要件を満たさないことが殆どかと思いますが、収益物件のオーナーチェンジであれば、貸付事業用宅地等の要件を満たす可能性があると考えられます。
不動産を売却し、売却益が発生する場合には譲渡所得の申告が必要です。譲渡申告を行う時期については、次の2つから選択することができます。
<原則>引き渡しのあった日を含む年(引渡日)
<例外>売買契約締結を行った日を含む年(契約日)
売買契約中に相続が発生した場合は、どちらを選択するかによって相続人の確定申告になるのか、それとも被相続人の準確定申告になるのかが異なり、譲渡所得の計算方法や住民税の負担などが変わってきます。
引渡日を選択した場合 | 契約日を選択した場合 | |
申告する人 | 相続人 | 被相続人 |
確定申告の種類 | 確定申告 | 準確定申告 |
住民税 | 課税される | 課税されない |
居住用財産の3,000万円特別控除 | 適用不可 | 適用可 |
相続税の取得費加算の特例 | 適用可 | 適用不可 |
売買契約中に相続が発生した場合は、どちらで申告する方が有利になるのかを慎重に検討しながら進める必要があります。
売買契約中に相続が発生するケースは珍しいですが、不動産の評価方法をきちんと理解しておかなければ誤った相続税申告になってしまうこともあります。また、譲渡申告についても相続人の確定申告で行うのか、それとも被相続人の準確定申告で行うのかによって適用できる控除や特例が異なるため、どれくらいの譲渡所得が発生するのかを見極める必要があります。
当事務所は、不動産相続に強い税理士事務所です。相続税申告だけではなく、譲渡所得についてもまとめてサポートいたします。不動産相続でお悩みの際は、ぜひ下記お問い合わせファームよりご連絡ください。
Contact us
お問い合わせ・無料相談のご予約
オンライン面談可・
平日夜間/土日対応可
受付時間 10:00~18:00(月〜金)
監修者情報
この記事の執筆者:渡邉 優
「渡邉優税理士事務所」代表。相続の中でも“不動産にお困りごとを抱える相続”の対応を得意としている。