日本国内の不動産の相続税評価額は、建物は固定資産税評価額により算定し、土地は路線価方式または倍率方式によって評価額の算定を行います。この路線価方式や倍率方式は日本独自の指標となっており、国外にある不動産には路線価や倍率が存在しません。
国によっては固定資産税評価額と似た指標がある場合もありますが、不動産の評価に関する公的な指標がない国もあるため、国外不動産の相続税評価額を算出することは難しいとされています。
では、実務上は国外不動産の相続税評価の算出はどのように行うのでしょうか?
ここでは「国外不動産の評価方法」について詳しく解説します。宅地の相続税評価を大幅に減額できる小規模宅地等の特例が国外不動産に適用できるのかについても解説いたしますので、国外に不動産をお持ちの方、購入を検討されている方は最後までお付き合いください。
目次
相続財産の評価方法を定めた「財産基本通達」では、国外財産の評価については次の評価方法により評価することが定められています。
【国外不動産の評価方法】
①財産評価基本通達に定める評価方法に準じた方法
②売買実例や専門家の鑑定価格等
(財産評価基本通達5-2(国外財産の評価))
①では、国外財産についても日本の財産と同じ方法で評価することが定められており、路線価がないなどの理由により日本と同じ方法で評価できない場合は②の売買実例や専門家の鑑定価格などを用いて評価することになります。
海外には路線価がある国は少ないため、財産評価基本通達に定める評価方法は利用できません。売買実例や専門家の鑑定価格等を用いて評価額を算定することになり、実務上では、次の3つの方法が用いられます。
売買実例価額とは、現地の不動産市場での売買取引を基礎として対象の不動産の評価額を算出する方法です。売買実例価額では、実勢価格を反映させるため、正確な時価評価が期待できますが、売買実例が少ない場合は評価が難しくなってしまいます。
精通者意見価格は、現地の不動産に精通した不動産鑑定士などの専門家に評価額の算出を依頼し、その価格を評価額にする方法です。専門家による評価であるため、評価額の正当性が担保されるメリットがありますが、専門家へ支払う費用の負担が発生します。
費用を抑えて国外不動産の評価を行う方法として「現地の不動産会社に査定を依頼する方法」があります。比較的容易に行える方法ですが、不動産会社ごとに査定額がばらつくこともあるため、複数社に査定してもらい比較するといいでしょう。
相続税の計算では、一定の条件を満たすことで相続した宅地の相続税評価額を最大80%減額することができる「小規模宅地等の特例」という制度があります。減額割合が非常に高いため、相続税の特例の中でも非常に重要な鍵を握る特例です。
小規模宅地等の特例については「【土地の評価を最大で80%減額】小規模宅地等の特例をわかりやすく解説!」の記事で紹介しておりますのでご覧ください。
小規模宅地等の特例は、日本国内の宅地にしか利用できないと思われがちですが、特例の要件には宅地の所在について制限されていません。したがって、国外の土地であっても、要件を満たせば小規模宅地等の特例を利用することができます。
特例適用のためには土地の評価額と面積が必要となりますが、不動産鑑定士などの専門家に評価レポートには、不動産全体の評価額のみが記載されるケースも多いため、依頼する際は「土地と建物それぞれの評価」と「土地の面積」の記載をリクエストしましょう。
効果的な相続税対策として「不動産を購入する方法」があります。この方法は、不動産の取引価格(時価)と相続税評価額の大きな差(乖離)を利用した節税方法であり、賃貸物件の購入ではさらに評価額を下げることができます。
詳しくはこちらをご覧ください。
「【不動産で相続税を節税できる】不動産を使った節税方法を解説!」
では、国外の不動産を購入した場合は、相続税対策として効果的なのでしょうか?
結論から言うと、国外の不動産の購入は相続税対策としての効果は得られにくいです。
なぜならば、路線価のない国の不動産は、売買実例価額や精通者意見価格、現地の不動産会社の査定額といった「時価」による評価が行われます。そのため、時価=相続税評価額となるため、路線価による評価額のように時価との乖離が生じず、節税効果を得ることができない場合がほとんどです。
国外の財産の相続税評価は、原則として日本円に換算して計算されます。そのため、円高のタイミングで相続した方が円安のタイミングよりも相続税を抑えることができます。特に不動産の場合は評価が高くなりやすいため、為替の影響が大きくなってしまいます。
相続のタイミングは誰にもわかりませんが、為替が相続税額に影響することを頭の中に入れておくといいでしょう。
国外不動産を相続した場合、日本で相続税が課税されるほか、その不動産がある国の相続税に相当する税金が課税される場合があります。この場合「二重課税」になってしまっているため、現地で支払った相続税に相当する税金を一定額まで日本の相続税から控除する「外国税額控除」を利用する必要があります。
相続税の外国税額控除についてはこちらをご覧ください。
【海外に財産がある場合は注意】外国税額控除で二重課税を回避する方法
国外不動産の評価方法は、国や状況によってどの方法を利用したほうがいいのか異なります。各国での不動産評価の具体例を見てみましょう。
アメリカでは、路線価に相当する指標がないため、専門家による鑑定額をもとに評価額を算出します。アメリカでは、裁判所の監督下で遺産の確定から相続人への分配までを行う手続きである「プロベート (Probate)」が必要です。このプロベート手続きを行う際には、不動産の時価を算出するために不動産鑑定士による鑑定評価が行われることが一般的です。
相続税申告の実務では、プロベートの際の鑑定額を用いることが多く、プロベートが必要ない場合は、不動産業者による査定の評価が一般的です。
タイの不動産には「土地法に定める登記手数料徴収用の不動産評価額」があり、タイの相続税申告ではこの評価額をもとに相続税を計算することになっています。そのため、日本の相続税申告にもこの指標を利用できると考えられますが、時価との大きな乖離がある場合も考えられるため、専門家への鑑定評価も視野に入れておくといいでしょう。
中国では、政府が土地を所有しており、建物の所有者は政府から土地を借りているという状態になります。そのため、不動産の評価を行うためには建物の評価額と土地の「使用権」の財産的価値を見積もる必要があります。使用権の財産的価値の見積もりには専門的な知識が必要になりますので、現地の不動産鑑定士に依頼しましょう。
韓国では、相続税に相当する税金があり、不動産の評価方法については「不動産価格公示及び鑑定評価に関する法律」で標準地公示価格が公示されています。課税上弊害がなければ、標準地公示価格を基準として評価額の計算を行います。
国外不動産がある相続では、国や状況によってどのような評価方法を選択するのか異なります。また、小規模宅地等の特例を利用できるかどうかによって相続税額に大きく影響するため、慎重な検討が必要になります。
当事務所は「不動産相続に強い税理士事務所」です。国外の不動産についても対応しておりますので、お気軽に下記お問い合わせフォームよりご連絡ください。
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この記事の執筆者:渡邉 優
「渡邉優税理士事務所」代表。相続の中でも“不動産にお困りごとを抱える相続”の対応を得意としている。